シン・ゴジラ

昨年大変な話題となった映画『シン・ゴジラ』が地上波で放映されたので、どんなものかと思い見てみました。

さすがに新しく作られただけのことはあり、随所に現代流に置き換えられた新しさはあったけれど、ゴジラという映画の後味としてはなにかすっきりしないものが残ってしまう、どこか腑に落ちないところを含んだ作品だった…というのがマロニエ君個人の感想です。

簡単に言うと、もう少しストレートにわくわくしながら楽しめる映画であってもよかったのではないかと思うのです。

これがまったく白紙から出てきた映画ならともかく、我々日本人にとってゴジラ映画は子供の頃からずっと慣れ親しんだ存在でもあり、そのイメージを払拭することは良くも悪くもできません。

過去にはなかった凄まじい迫力をもったシーンのいくつかで、さすがは最新版らしく観る者をアッと驚かす部分もあるけれど、あちらこちらでコストカットされた薄っぺらさも感じてしまうあたりは、今風にしたたかに計算された感じもうっすら出てしまっている気がしました。

最大の理由として、その一番の主役であるはずのゴジラが出てくるシーンが、あまりに少なかったような印象だったのですが、他の人はどうなんだろうと思いました。
ゴジラ=破壊シーンとなるのは必然でしょうから、それを増やすとなればコスト増にも繋がるのかもしれないけれど、とにかくゴジラのシーンより、それを迎え撃つ側の若手俳優陣が目を吊り上げて、忙しくセリフ合戦を繰り広げる場面がメインのようで、ときどき思い出したようにゴジラがちょちょっと出てくるという感じ。

もっとも気にかかったというか、ゆったり楽しめなかった最大の原因は、ほとんどすべての出演者が競い合うように猛烈なスピードでお堅い言葉のセリフをまくし立てるばかりで、まるで耳がついていけなかったこと。
むかしのゴジラのどこかのんびりした感じを排し、よりリアルに、政府や関係者たちの切迫感をシャープに描きたかったのかもしれないけれど、あれはいくらなんでもやり過ぎというもの。
大人から子供までだれもが楽しめる作品ということになっているらしいが、あの早口言葉の洪水のような難しいセリフをほぼ2時間聞かされて、それについていける人など果たしてどれだけいるのかと思うばかり。
もしや、これはほとんど聞かなくてもいいセリフなのかもと思いましたが、それにしてはそのセリフのシーンの多いこと多いこと。

映画を見る上では、セリフを理解しながら進むということは基本だと思うけれど、それがまるでビデオの早送りのように高速でせわしなく、あまつさえ一度聞いてもわからないような特殊用語や専門的な言い回しの連続で、まずその聞き取りに集中するだけでも「楽しむ」どころか追い回されるようで、エネルギーをえらく消耗させられてしまうようでした。
これだけですでにぐったり疲れてしまい、映画の面白さが半減でした。

東京にゴジラのような大怪獣があらわれたのだから、その対策に当たる関係者が一様に大慌てで緊迫の連続というのはむろんわかるけど、それがあの不自然極まりないセリフ合戦のようになるのでは、むしろリアリティを欠き、まったく納得しかねるものでしたしちょっと滑稽でもありました。
しかもその内容が憲法や自衛隊法、あるいは科学分野の専門用語を多く含むセリフなので、出演者のほとんどが演技らしい演技もそっちのけでひたすらしゃべりまくり、見ている側はその様子に置いて行かれてしまうようでした。

あれでは俳優諸氏も大変だったでしょうし、噛んだり間違えたりトチったりと、かなりのNGシーンが山とあふれ、ミスらなかったものの集合体をつなぎ合わせたものが本編ということなのでしょうが、もう少し自然にできないものかと思いました。

肝心のゴジラはというと、なぜ生まれて、なぜ東京にきて、最後は要するにどうなったのか、わかったようなわからないような…なぜなぜの連続でした。
ネットの解説などを読めばわかるのかもしれませんが、たかだかゴジラのような娯楽映画で、そんな予習復習をしようとも思わず、もっと普通に見て普通に楽しめるものじゃいけないの?というのが正直なところ。

全体をえらくシリアスに描いたわりには、はじめに出てきた成長前のゴジラは、まんまるお目々のかなり漫画チックなカワイイ系のお顔だったのもかなり笑えましたし、実際成長後のゴジラとあまり結びつかないイメージで、総力挙げて作られた映画だったのかもしれないけれど、全体に完成度はあまり高いとは言えないような気がします。