BSのクラシック倶楽部アラカルトで、一昨年秋のアンスネスの東京でのリサイタルから、シベリウスのソナチネ第1番とドビュッシーの版画を視聴しましたが、ピアノのほうに不可解というか、驚いたことがありました。
このときのアンスネスの来日公演では以前にもこのブログに書いた覚えがありますが、スタインウェイの大屋根が標準よりもずっと高く開けられていることが演奏以上に気になり、(アンスネスの演奏は非常にオーソドックスであることもあって)そちらばかりが記憶に残りました。
大屋根を支える突上棒の先にはエクステンションバーみたいなものが取り付けられて、そのぶん通常よりも大屋根が大きく開かれてピアノが異様な姿になっていることと、やたら音が生々しくパンパン鳴っているのは、今回もやはり同じ印象でした。
ところが、前回うっかり見落としていたことがありました。
よく見ると、ピアノの内部に普段見慣れぬ小さなモノがあって、はじめはスマホのようなものに譜面でも仕込んであるのかとも思ったのですが、カメラが寄っていくと、そうではないことがわかり、さらにはなんだかよくわからない物体がフレームの交差するところや、それ以外にもあちこちに取り付けられており、色や形もさまざま。
平べったいもの、黒い円筒形のようなもの、赤茶色のお鮨ぐらいの小さなものなど、自分の目で確認できただけでも10個はありました。
それが何であるのかは今のところさっぱりわからないものの、大屋根が異様に大きく開かれていることと何か関係しているよう思えてなりません。
音は、しょせんはBDレコーダーに繋いだアンプとスピーカーを通して聞くもので、現場で実演を聴いたわけではないけれど、いつもその状態で聴いている経験からすると、あきらかに大きな音がピアノから出ていることがわかるし、しかもその音はピアノ本来のパワーであるとか鳴りの良さ、あるいはピアニストのタッチがもたらすものというものより、何か意図的に増幅されたもののように聴こえます。
少なくとも昔のピアノが持っていたような深くて豊饒なリッチな音というたぐいではなく、いかにも現代のピアノらしい平坦で整った音が、そのままボリュームアップしたという感じです。
早い話が、マイクを通した音みたいな感じでもあり、果たしてどんなからくりなのか調律師さんあたりに聞いてみるなどして、少し調査してみたいと思っているところですが、いずれにしろこんなものは初めて見た気がします。
番組は、55分の1回で収まりきれなかったものをアラカルトとして放送しているようで、アンスネスのあとはアレクセイ・ヴォロディンのリサイタルからプロコフィエフのバレエ『ロメオとジュリエット』から10の小品が続けて放映されましたが、同じ番組で続けて聴くものだけに、こちらは前半のアンスネスに比べてずいぶん地味でコンパクトな響きに聞こえてしまいました。
もちろんホールも違うし、ピアニストも違いますが、いずれもピアノは新し目のスタインウェイDだし、そこにはなにか大きな違いがあるとしか思えませんでした。
マロニエ君の個人的な想像ですが、アンスネスのリサイタルで使われたピアノ(もしくは装着された装置)は誰かが考え出した、音の増幅のためのからくりなんではなかろうかと思います。
それも、ただマイクを使って電気的にボリュームアップしたというのではなく、もう少し凝ったものなのかもしれません。
そういえば以前お会いしたことのある音楽のお好きな病院の院長先生は、ゲルマニウムの大変な信奉者で、ご自分の体はもちろん大きな病院に置かれていた高級なオーディオ装置やスタインウェイD/ベーゼンのインペリアルに「音のため」ということで、フレームなどゲルマニウムがいたるところに貼り付けてあったことを思い出しました。
そういう類のものなのか、あるいはもっと科学的な裏付けや効果をもった装置なのか、そこらはわかりませんが明らかに音が大きくパワフルになっていたのは事実のようでした。
音を増幅させるということは一概に悪いことだと決めつけることはできないことかもしれないし、そもそも楽器そのものが音を増幅するように作られているものなので、どこまでが許されることなのかはマロニエ君にはわかりません。
なんとなく現時点での印象としては、ピアノがドーピングでもしているような、本来の力ではないものを出している不自然さを感じたことも事実です。