前回の調整で中音域のハンマーが全体に左寄りになっていることが判明、これを正しい位置に戻したら、弦溝の位置が変わってモコモコ音になってしまったことはすでに書いたとおりでした。
弦溝がずれて輪郭がなくなった音は、整えられた柔らかい音とはまったく違い、弾いていても鳴りもバラバラだしストレスがたまり、なにも楽しくありません。
とはいえ、新しい弦溝を刻むべく、ガマンしながら思い毎日少しは弾いてはいましたが、やはり本来の状態とはかけ離れただらしない音がするばかりで、ついに耐えかねて再調整というか、なんとかこの状態を脱すべく、調律師さんに再訪をお願いました。
調律師さんもそのことは充分にわかっておられたようで、前回は時間切れでもあったし、再度来ていただきました。
マロニエ君にはあまりわかりませんでしたが、調律師さんによればそれでも数週間ほど弾いたおかげでだいぶ落ち着いてきているとのこと。なにがどう落ち着いているのかよくわかりませんが、さっそく仕事開始となりました。
今回は、ハンマーが正しい位置に戻ってしばらく弾いたということで、ハンマーの整形をおこなうことに。
ヤスリを使って、一つひとつのハンマーを丁寧に薄く剥いていくことで、おかしくなっている打弦部分の形状を整え、新しい部分を表出させ、そこにコテを当てて音に輪郭を作るという作業プランのようです。
ちなみに我が家のシュベスターがたまたまそうなのか、シュベスターというメーカー全体がそうなのかはわかりませんが、調律師さんによるとハンマーのフェルトはそこそこいいものが付けられているそうで、薄く削られたフェルトはふわふわした雲のような綿状になっています。
一般的にハンマーの材質は近年かなり低下の一途を辿っているようで、とくに普及品ではフェルトを削ると、削りかすが粉状になってザラザラと下に落ちてしまうのはしばしば耳にしていたのですが、これは毛足の短い質の悪い羊毛をがちがちに固めただけだからとのこと。
ハンマーのメーカーはわかりませんでしたが、ともかく今どきのものに比べると弾力もあり、それだけでもまともなものが使われているということではあるようで、今はこんなことでもなんだか嬉しい気になってしまう時代になりました。
この作業が終わるだけでもかなりの時間を要しましたが、次は打弦部分にコテを当てて音に輪郭を出す作業だったのですが、モコモコ音があまりにひどかったためか、ハンマー整形しただけでも目が覚めたように音が明るくきれいになり、マロニエ君はこの時点ですっかり満足してしまいました。
すると「これでいいと思われるのであれば、できればコテはあてないでこのまま弾いていくほうが好ましいです。」ということなので、「じゃあ、これでいいです。」となりました。
そこから、調律をして音を整えるためのいろいろな調整などいろいろやっていただき、この日の作業が終わったのは夜の八時半。作業開始が2時だったので、実に6時間半の作業でした。
しかも、この方はほとんど休憩というのを取られず、お茶などもちょっとした合間にごくごくと飲まれるし、雑談などをしていてもほとんど手は止まらず作業が続きますから、滞在時間と作業時間はきわめて近いものになります。
つい先日の調整が4時間半だったので、今回と合わせると、ひと月内で11時間に迫る作業となりました。
アップライトピアノでこれだけ時間をかけて調整をしてくださる調律師さん、あるいはそれを依頼される方は、あまり多くはないだろうと思いますが、ピアノはやはり調整しだいのものなので、やればやっただけの結果が出て、今回はかなり良くなりました。
この調律師さんは、シュベスターの経験は少ないとのことですが、とても良く鳴るピアノだと褒めていただきました。
低音はかなり迫力があるし、中音には温かい歌心があり、さらに「普通は高音になるに従って音が痩せて伸びがなくなるものだけれど、このピアノにはそれがなく高音域でもちゃんと音が伸びている」んだそうです。
そのあたりは、やはり響板の材質にも拠るところが大きいのではないかと思われます。
人工的な材料を多用して無理に鳴らしているピアノは、すべて計算ずくでMAXでがんばるけれど、実はストレスまみれの人みたいで余裕がありませんが、美しい音楽には自然さやゆとりこそ必要なものだと思うこのごろです。