日本のピアノの本

ピアノに関する書籍というと、教本や作品に関するものが大半で、ピアノという楽器そのものを取り扱った本というのは非常に限られます。

そんな中、『日本のピアノメーカーとブランド ~およそ200メーカーと400ブランドを検証する~』という新刊があることをネットで知り、さっそくAmazonで注文しました。
著者は三浦啓市氏、発行元は按可社、定価は4,000円+税というもので安くはないけれど、マロニエ君としてはやはりこれは買うしかないと思い、迷わずクリックすることに。

届いた本は、今どきA4サイズという雑誌並みに大きな本で、付録として「日本のピアノメーカー年表(生産台数推移付き)」という一覧表も付いていました。
内容は、明治以来、日本には約200社にものぼるピアノメーカーが現れ、その大半が消えていったという歴史があり、それを可能な限り取りまとめた一冊でした。

前半は、日本のピアノメーカー、一社ごとの紹介。
そのほとんどが消滅したとはいえ、現役を含むそれらをひとつひとつ見ていると、大小これほどたくさんのピアノメーカーが誕生し、ピアノを製造したという足跡に触れるだけでも、まったく驚きに値するものでした。

後半は、各ブランドごとのカラー写真や社名、ブランド名がアルファベット順にこまかく並べられた部分となり、一社で複数のブランドを生産していた場合も少なくないため、こちらは実に400ブランドに達するというのですから、かつての日本は紛れもなくピアノ生産大国だったことの証左となる本だと言っても過言ではありません。

歴史上、ピアノ生産大国と知られるドイツやアメリカでは果たしてどれくらいの数になるのか、機会があればぜひ知りたいものだと思うと同時に、明治維新までほとんど西洋音楽の歴史もなかった東洋の日本が、いかなる理由でこれほどまでにピアノ製造に熱中したのか、それはマロニエ君にはまったくの謎ですね。

日本人が、これほど多くのピアノブランドを必要とするほど音楽好きとも思えないので、ここまでメーカー数ブランド数が増えた背景には何があったのだろうと社会学として考えてしまいます。

ひとつにはピアノを作るには、バイオリンのように職工ひとりで事足りるものではなく、生産設備や会社組織といった、いわば最低限の産業構造を必要とする楽器であり、ピアノ製造に将来を夢見た人達が集まったこと。
あるいは大きくて見栄えのするピアノは、家が一軒建つほど高価であったという過去があり、それを買い求めることはある時期までは人々の豊かさの象徴でもあり、ステータスシンボルでもあっただろうことなどが頭に浮かびました。

それにしても、ページをパラパラやっているだけでも、その途方もない数のメーカーとブランドが存在したことは、紛れも無い事実。
しかも、そのほとんどが消滅したというのは、いっときの夢ではないけれども、ちょっと信じられないような、なにか時代のむごさのようなものを感じないわけにはいきません。

もし家にドラえもんがいたら、タイムマシンに乗って一社ずつまわってみたいものです。

そこに掲載されるメーカーのほとんどすべてが倒産や廃業に追い込まれ、貴重な資料も失われていることから、できるだけそれを追跡し、まとめ上げたという、非常に貴重な本でした。

どうしても入手できなかったと見えて、ところどころに写真が空欄のままになっているブランドがありますが、このような資料性の高い本の出現によって、さらに現物が発見・確認などされることを望むばかりです。