スペシャル?

ネットなどを見ていると、技術者が仕上げたカスタムピアノとかスペシャル仕様というようなピアノがたまに目に止まりますが、これってどうなんでしょう?

外観に関することもあるかとは思いますが、ここでいいたいのは中古ピアノを商品として仕上げたりリニューアルする際に、弦やハンマーなどを純正ではない輸入物のブランド品に交換して、独自の調整を施すことでオリジナルよりもワンランク上の音を目指したというもの。
なるほどという気もしないではないけど、本当に言うほどの効果があるものでしょうか?

マロニエ君も過去に何度かそのたぐいのピアノに触れたことはありますが、おー!と思ったようなことは実は一度もありません。
そもそもその前の状態を知らないし、オーバーホールが必要なほど消耗品類がダメになっているピアノの場合、それらを新しいものに交換しただけでも見違えるようになるはず。
本当にスペシャルと言えるほどの違いがあるのかどうかを確認するためには、新しめのピアノでパーツ交換をしてみることだと思いますが、普通そんなことはしませんから、要するにどの程度の差があるか本当のところはよくわからないというのが実感です。

ハンマーなどは、メーカーによる個性や特徴もあるとは思いますが、それよりも等級というか品質のほうが重要ではないかと思います。
同じメーカーでも安いものから高級品まであり、大事なのはそれぞれのハンマーの品質。

中にはありふれた国産の量産ピアノにレンナーのハンマーを付け、ややダイヤモンド型に整形するだけして「スタインウェイ仕様のハンマー装着」などと書かれ、きっちり手を入れているから実質は世界の名品並みのように変身させているといったような記述を見ることがあります。

もちろんどんなピアノでも使うハンマーは良いものであるのに越したことはないでしょう。
ただ、ピアノの音や性格の根本となるのは当然のことながら設計であり、これで大方の良し悪しや方向性など個性が決まってしまうと思われます。
日本の伝説的なピアノ職人である大橋幡岩氏は、設計図を描いたらそのピアノの音が聴こえてくるとまで言っておられるほど。

設計による根本の器や性格が決まっているピアノに、後からどんなに良質の弦やハンマーを奢ってみたところで、しょせんは気休め程度の変化に留まるのでは?とマロニエ君は思うのです。

いつも書いているように、ピアノを生かすも殺すも技術者と管理しだいという基本は変わりませんが、それは、あくまでピアノが生まれ持っている能力を最良の状態で引き出すということであって、設計そのものの話とは次元が異なります。
設計如何によって各々のピアノ個性や音色や能力は決まるので、ここがやはり楽器としての根本であり、どんなに優秀な技術者であろうとも、設計を凌駕するような魔法みたいなことができるわけでもない。

それほど設計というのは動かしがたいピアノの潜在力と性格を決するものだと思います。
同じ設計の中で、違いが出せる要素は厳密にはいろいろあると思われますが、もっともわかりやすいところでは響板ではないかと思いますし、フレームの鋳造方法などもあるのかも。

響板の良否というのはかなり影響があると思われ、良質な木材を天然乾燥したものと、普及品を人工乾燥したものでは、同じ設計でもかなり音や響きの差がでるのは間違いないと思います。
いい響板だと音に色艶や深味がでるし、伸びがあって柔らか、ボリュームも出ますが、響板の質が劣ると音が人工的で鳴りが痩せていき、スケールの小さい楽器になってしまうのではないかと思います。

ただし、マロニエ君の拙い経験でいうと、基本的な音色や音の性格は、それでも設計に拠るところが大きいのか、材料の質が落ちても、ピアノ全体としての性格や音の傾向みたいなものはあまり変わらない気がします。

同じピアニストが軽くリハーサルで弾いたときと、本番で真剣に弾いた時の差ぐらいで、まあそれも大きな違いといえばそうなんですが、すくなくとも別人が弾くほどの差にはならず、根底は同じところから出てくるものということです。

車でいうと、タイヤやダンパーをちょっと別メーカーのいいものに交換しても、その差はなるほどあるにはあるけれど全体が変わるわけではなく、言ってしまえば自己満足レベルを大きく出ることはないのです。
すくなくとも、腕利きのメカニックがパーツ交換して高度なセッティングをすれば一定の好ましい変化が起こる場合はありますが、だからといって価格が何倍もする高級車並とかポルシェと同等なんてことには、絶対になりません。

ピアノはわかりにくいものだけに、専門家の意見を鵜呑みにしがちですが、それだけに気をつけたほうがいいかもしれませんね。中には技術者自身が素晴らしい良くなったと信じ込んでいるケースもあるので、こうなると判断はいよいよ困難を極めます。