自室のシュベスターにちょっと意外なことが起こりました。
ある技術者の方が来られ、この日はピアノを見ていただくだけだったため、何の手も入れられなかったのですが、帰られたあとで思わぬ変化があってびっくりすることに。
というのも、マロニエ君はもともとピアノの上に物を置くのはきらいで、グランドではなにも置かないようにしていますが、自室のアップライトではさすがにそこまで徹底できず、楽譜をあれこれを約20冊ぐらい置いて、思いつくままに手を伸ばしては譜面台に置くという感じにしています。
なので、その技術者さんが見えたときは、上の蓋を開けたりできるよう楽譜類をひとまとめにして、床の一箇所に置いていました。
はじめは上を開けただけでしたが、結局は前面上部の垂直の板と、鍵盤蓋を全部とって見られることになりました。
繰り返しますが、このときは何も作業をされることなく、ただ見たり音を出したりするだけで、ネジ1つも回されたわけではなく、最後にきちんと元の状態に戻して、あとは別室で雑談を少ししてお帰りになっただけです。
ところが、そのあと、なにげなく弾いてみると、なんだかよくわからないけれどいつもとちょっと様子が違いました。
すぐわかったのは、低音セクションが普段より力強く鳴っていること。
はじめは「ん?」「なんで?」という感じだったのですが、あきらかにこれまでよりビシッと鳴っているのがわかりました。
このところ、少しずつ練習しているショパンのマズルカを弾いてみますが、やはりバスを鳴らしたときの厚みが違っていて「エエエ!?」となりました。
はじめはマロニエ君がちょっと部屋を出た間に、技術者の方がなにか技でもかけられたのか…とも思いましたが、まさか黙ってそんなことをされるとはとても思えません。
で、その技術者さんが来られる前と後では何か違っていることはないかを、急いで考えました。
見渡してみたところ、ただひとつ目についたのは楽譜。
技術者さんが帰られたあと、床においていた楽譜の束をヨイショと抱え上げて、そのままピアノの左上にドサッと載せていました。
まさかこれ?と思い、それらを右側(高音側)に置きかえて弾いてみると、なんと低音のパワーははっきりと元の鳴り方にもどりました。
まさか…こんなことがあるなんて聞いたこともないし、とくにアップライト前面の蓋とか上部なんて、いうなればただの囲いにすぎず、開閉以外に音や鳴りという点において、そんな影響があるなんて思えません。
でも、それで変わったのは事実なので、それからというもの、高さ20cmほどの楽譜の塊を、左上に置いたり真ん中においたり、床に下ろしてみたりと、ハアハアいいながらずいぶん実験しました。
ところが、それを何度もやっているうちに、はじめの変化はなくなって行きました。
来宅された技術者さんにも電話して事の顛末を伝えましたが、むろん何一つ心当たりはないばかりか、そういう事例は聞いたことがないということで、そりゃあそうだろう…あれは単なる錯覚だったのか?とも思いましたが、でも、変化したときのあの「感動」は今でもしっかりと覚えています。
それいらい変化はなく、幸いなことにパワーはあるほうで定着しているようです。
むろん、原因はなにひとつ分からずじまいのまま。
思いもよらない出来事でしたが、こういう謎めいたことも手作り楽器ならではの面白さだと思うことにしました。