ピアノのレクサス

知人からお誘いいただき、カワイのショールーム内に併設された小さなホールにシゲルカワイのコンサートグランド(SK-EX)が期間限定で置かれていて、ひとり30分弾けるというので、行ってきました。

あるていど予想はしていたけれど、今どきのテイストですべてが完璧に整えられた、まさにピアノのレクサスとでもいったところでしょうか。
たしかによく作られており、製品としては素晴らしいとは思うけれど、楽器としての生命感とか血の通った感じはなく、熱くなれないところがいかにも今っぽいなあと思いました。
至って機械的で、現代のハイテク技術で正確無比に作られた豪華なお城みたいな感じ。

いかにも新品然としていたので、おそらく最新もしくはそれに近いモデルだと思われましたが、これといったクセもムラもない、全音域にわたって見事に整いまくっていました。
あまりに整いすぎて、かつてはEXなどにあったカワイの特徴らしきものまで跡形もなく消えてしまっており、もしブラインドテストでもされたら、メーカーを言いあてることはかなり難しいだろうと思いました。

これまではやや野暮ったいところも含めてカワイらしさがいろいろありましたが、いつの間にここまで宗旨替えしたのか、たいそう洗練されて、昔のカワイから思えば隔世の感がありました。

今どきの製品としては最高ランクに列せられるコンサートピアノだというのはわかるのですが、ひたすら他社のコンサートピアノと肩を並べること、嫌う要素を残さないように徹したという感じ。
音も「きれい」ではあるが、「美しい」という言葉を使うときの深くて底知れぬ世界とは違います。

当節は、良好な人間関係を築くためには自我を出さないことが肝要なようですが、まさかそれがピアノにまで求められるようになったのかと思うと、なんとも寂しい限りです。
個性やインパクトは評価が分かれるから危険で、それらを排し、コンクールの檜舞台でまんべんなく点数が稼げるピアノ?

SK-EXといえば、むかし楽器フェアの会場が池袋から横浜に変わったころ、ほとんど試作品みたなSK-EXをちょっとだけ触ったことがありますが、えらくスタインウェイを意識した感じで、それがいいかどうかはともかく、作り手の気迫みたいなもの伝わってくるピアノであったような記憶があります。
EXにくらべてブリリアンスとパワーがあきらかに増していて、そこには欠点やはみ出しもあったかもしれないけれど、とにかく熱いものはありました。

それとは対照的に、今回弾かせてもらったSK-EXは、徹底的なリサーチのもとにネガ潰しされつくしたのか、あえて主張めいたことはせず、デジタル一眼カメラのようなクリアーな面だけを出すように作られたピアノという印象でした。
コンクールと同様、今どきは個性は必ずしも長所とならない時代、このSK-EXはむしろその点を注意しながら作りましたよ!というのが前に出ていて、コンサートグランドならぬコンクールグランドとでもいいたくなる、そんなピアノでした。

今回はカワイショップの企画のお陰で、無料で弾かせていただくことができたもの。
タダで弾かせてもらっておいて、言いたいことだけ言うのは甚だ申し訳ない気もするのですが、だからといって心にもないことは書けないし、これはあくまでもアマチュアのピアノ好きの戯れ言なので、何卒お許しいただきたいところです。
こういう機会を作ってくださったカワイショップのご厚意には深く感謝しています。

蛇足ですが、今回も思ったのは、カワイのフルコンって、なんであんなにボディの側板がぶ厚いんだろう?ということ。
思わずミニカーでも並べたくなるほどで、そういえば昔から、カワイは響板も厚めなんだとか。
カワイは熱いかどうかはともかく「厚い」ことは今も確かに受け継がれているようです。