コンクールネタでもうひとつ。
今年のNHKは、年初からピアノ関連の番組が多いということを書きましたが、更にそれは続きました。
「『蜜蜂と遠雷』 若きピアニストたちの18日」というもので、第10回浜松ピアノコンクールに密着したドキュメント。
ところどころ、俳優の中川大志さんがピアノの前で、小説『蜜蜂と遠雷』を手に朗読を挟みながら番組が進む構成。
『蜜蜂と遠雷』は、マロニエ君にとって読んだころから、小説として掴みづらく、なにが主題なのかよくわからない作品だったのですが、そんな印象とは裏腹に直木賞と本屋大賞をダブル受賞し、どんどん話題となっていったき、なんだか自分の感覚だけが世間から置いて行かれるようでした。
そもそも『蜜蜂と遠雷』というタイトルからして、もう忘れたけれど、なんだかもってまわった謎解きみたいなわかりにくいもので、要するにピアノということ以外、自分の趣味ではないものづくしでした。
べつに漱石だ谷崎だと旧いものにしがみつく気はないけれど、こういうものが今どきは文学作品として評価されるんだということに困惑したのが偽らざるところでした。
さて、その『蜜蜂と遠雷』を前面に押し出しながら、NHKによる実際のコンクールのドキュメントという作りのようですが、まず事前の率直なイメージとして「60分は短いのでは?」というのが頭をよぎりました。
調律師のショパンコンクール、ピリオド楽器のショパンコンクール、左手のコンクールなど、いずれもここ最近のNHKのそれらは2時間に近いサイズで、60分とわかったときからちょっとへぇ…という感じが。
夕食を外でとっていると、一足先に見られた知人の方からLINEが届き、「牛田智大さん個人のドキュメンタリーのようでした」というもので、???
もうこの時点で見る前から半分腰を折られた気分。
実際に見てみたら、まったくその通りで、彼がメインの番組構成でした。
驚くべきは、決勝進出の6人中、今回は日本人が4人と大健闘し、これはこのコンクール初という快挙であるにもかかわらず、番組は牛田さん以外の誰ひとりとして取り上げることがなかったばかりか、優勝したトルコのジャン・チャクムルさんの演奏さえ完全無視されていたこと。
番組タイトルが「…牛田智大の18日」ならまだしも、「…若きピアニストたちの18日」ですから、これはなかなか納得するのが難しいものでした。
牛田さん以外に唯一取り上げられたのは、3位入賞の韓国のイ・ヒョクさんで、決勝での演奏が少しとホテルの部屋で弟とチェスをやっているシーン、あとは途中で敗退したコンテスタントが、日本のホストファミリーの家族と過ごす様子などが少しあった程度。
べつに牛田さんにどうこう言うつもりはありません。
でも、同じ決勝まで勝ち進んだ日本人の今田篤さん、務川慧悟さん、安並貴史さん、そしてなにより優勝したジャン・チャクムルさんらは、この番組を見たらどう感じるのだろうと思うし、きっといい気持ちはしないでしょう。
ちなみにイ・ヒョクさんは決勝ではラフマニノフの3番を弾いていましたが、あの難曲を弾きつつその落ち着き払った演奏とテクニックは不気味なほどの凄みがありました。
なんと、ヴァイオリンも達者、将来は指揮者になりたいのだそうで、まさに次世代のチョン・ミョンフンとでもいいたくなる存在感がありました。
天才が当たり前の世界というのは、いやはや恐ろしいものです。
ピアノは、ヤマハ、カワイ、スタインウェイの3台。
ですが、浜松はヤマハ/カワイゆかりの街だからでしょうが、昔からこのコンクールではどうもスタインウェイは脇役という感じが否めず、それはそれでアリだと思います。
むしろ、浜松らしくピアノはヤマハ/カワイだけにしたほうがずっと潔い気もしますが、そうはいかないのだろうか。
できれば各社2台ずつ、計4台の中からピアノを選ぶようにしたほうがスッキリしないでしょうか?
驚いたのは、浜松駅の構内にはヤマハのCFXがポンと置かれていて、それで移動中の牛田さんがスーツケースを側においてリストのソナタを弾いていましたが、さすがは浜松、駅ピアノもすごい!と思えるシーンでした。
あとで調べると、優勝者が弾いたのはカワイのSK-EXだったようで、昨年カワイのサロンで同モデルを弾かせてもらって、そのときの感想を「点数が確実に稼げるコンクールグランド」というように書きましたが、まさにその面目を果たしたというか、ご同慶の至りといったところでしょう。