少しソフトに

昨年末から持ち越しになっていた、自室のシュベスターの調律をやっていただきました。
主治医の調律師さんは毎回丁寧にやってくださいますが、今回は主に整音をメインとしてお願いし、トータル5時間オーバーの作業となりました。

聞くところによると、一般的にはアップライトのハンマーヘッドは針を入れづらいほど固いものが多いらしいのですが、我が家のシュベスターは珍しいほど柔らかい巻きだそうです。
こういうところにも作り手の音に対する何らかの意図が表れているのでしょう。
柔らかいハンマーといえば、主にアメリカのピアノであるとか、ヨーロッパでも古い時代のピアノがそうでしたが、その後は固いハンマーを針でほぐしながらヴォイシングしていくのが世界的な流れになった印象があり、深くまろやかな音より、エッジのきいたインパクトのある音を時代が求めたのかもしれません。

なので現在は巻の固いハンマーが主流かつ固定化していると思っていたら、ここ最近の日本製の新しいピアノ(グランドを含む)は、どちらかというと以前より柔らかいハンマーが付いているんだそうで、これは意外でした。

もちろん、ただ柔らかいとはいっても、その素材や製法、ハンマーとしての性質はいろいろあるわけで、良質の羊毛で作られた昔の古き良きハンマーとは根本的に違うとしても、新しいピアノのハンマーが以前より柔らかくなってきたというのは、ちょっと意外な話でした。
いわれてみれば、たしかに最近のピアノの音は深味こそないけれど、さほどキンキンした音ではなくなり、ほどよく角のとれた嫌味のない音になっているので、それを可能にしているひとつが柔らかいハンマーなのかもしれません。

シュベスターに戻ると、かなり弾いて少し派手な音になっていたので、ソフトな音にして欲しいという希望を伝えましたが、この調律師さんはかなりのこだわりのある方で、すぐ単純に「はい」というわけにはいきません。
針は一度入れたらもとには戻らないこと、ただソフトにするだけでは音の輪郭がぼやける、フォルテシモが出なくなる、必要な芯までなくなってしまうことなどを考慮され、きわめて慎重に針を入れられました。

入れたら入れたで、隣り合う音のバランスやらなにやらがあり、その都度調整。
さらに外していた上前板/鍵盤蓋を取り付け、前屋根も閉めて音を出すと、我が家のシュベスターは「箱鳴り」がするのだそうで、そうなるとまた少し違ってくるというので、また外して追加作業となり、こんなことをやっていると時間はどんどん過ぎていきます。

このシュベスターはそこそこ良い音を出すピアノだとは思うものの、新しいピアノではないので問題もないではなく、例えば巻線(低音の弦)の中には、ややあやしいものがあったりで、それらは順次解決すべき課題。
問題のある弦は張替えもやむなしかと思いましたが、とりあえず硬化剤を使いながら調律で音を出すという方法が取られたところ、それほど気にならないまでに持ちなおし、もう少し現状で様子見することになりました。
これはあくまで一時しのぎであって、基本的な解決ではありませんが。

硬化剤といえば、中音〜次高音にかけても、ソフトにするためにも上記の音の芯を失わないためなのか、僅かに硬化剤を使いながら音そのものはソフト方向に持っていくという手法が取られ、音作りは単純ではないなあと勉強になりました。
結果は上々でしたが、かなり精妙に仕上がった感じもあるから、その精妙さが崩れるのが惜しくて、この数日はチビチビと美酒を舐めるように弾いてます。


今回、調律さんから、日本ピアノ調律師協会のカレンダーというのをいただきました。
見ると上下に分かれ、上が写真、下がカレンダーというよくある作りで、ひと月ごとの12パターンですが、その写真というのがいずれも博物館級のピアノで「わっ!」というものでした。
しかも大半が名も知らぬような珍品ばかりで写真も非常に美しく、さすがは技術者集団だけのことはあると唸りました。

まさか日本に、こんなにマニアックで素晴らしいピアノのカレンダーがあるなんてちっとも知らず、昔のものも見てみたいです。