ハイルーセン

浸透潤滑剤というのがあるのをご存知でしょうか?

動かないネジを緩めたり、いろいろな機械の可動部分の動きをズムーズにするシリコンなどの潤滑剤で、スプレー缶で細長いノズルが付いており、説明を見ても「締りや滑りの悪い敷居やサッシ」「カーテンレールの滑り」「タンスの引き出し」「PCマウスの動きがスムーズに」「ハサミの切れ味がよみがえる」などなんでも使えます。

車の世界ではよくあるもので、その最も代表的なのが「呉工業 CRC-556」などで、これはべつに車専用というわけではなく、なにかと使われている方は多いと思います。

「動きの渋くなった扉や戸棚の蝶番」「ギシギシ音の解消」にもよく使われるし、ピアノの調律師さんも道具箱の中にこれが入っているのは何度も見たことがあります。

以前書いた、日本製のコンサートベンチ(ピアノの椅子)のギシギシ音ですが、調整してくださった技術者さんも当然このCRC-556は使われたようですが、これの欠点は、その効果が短命で持続力に欠けるという点にあります。

使う対象にもよりますが、だいたい一週間から10日、ひどい場合は2〜3日で効果がなくなります。

ところが、世の中にはすごいものがあるんですね。
知人の話で、どうやっても消せなかった車の足回りから聞こえてくるキシミ音が、ディーラに出したらものの見事に治った上に再発もしないため、一体どういう修理をしたのかディーラーに聞いそうです。
ところが、はじめはなかなか教えてもらえず、問い詰めてしぶしぶ言ったのがトヨタのハイルーセンEVOという浸透防錆潤滑剤を塗布したということ。

そのディーラーがトヨタではないこともあり、それを使っていたこともなかなか言えなかった理由のようでした。
トヨタの部品販売店に行けば取り寄せてくれますし、アマゾンでも買えるものです。

車のサスペンションのゴムブッシュの境目や取付部などに塗っておくと動きが軽くなめらかになって、乗り心地が良くなるというので、講習をかねてそれをプシュプシュやっては走ってみるというような実験をしましたが、たしかにサスの当たり(とくに初動)が滑らかになり、車全体がスムーズになったかのようでした。

さっそくマロニエ君も購入したのは言うまでもありません。
価格は1缶2000円しないぐらいで、成分は「鉱物油、石油系溶剤、防錆剤」とあるだけですが、無色透明のサラサラした液体です。

はじめは車に使っていましたが、キッチンの食器収納の扉の動きが年々渋くなり、しまいには開閉にともない金切り声のようなとてつもない音を立てるので、「そうだ!」とこのハイルーセンを思い出し、その収納棚の扉を支える3つの蝶番にプシュプシュとやってみました。
結果は、その強烈な音がウソのように消えただけでなく、動きが超スムーズになりすぎて、いつもの力加減だとその扉に埋め込まれたガラスが割れるのではないかというほどの勢いでスパーン!と閉まりました。

それからというもの、家の中にも置くようになり、なにかというとこれを用いました。
それなのに、最も大事な使い道を思いつかなかったのですから、マロニエ君も相当抜けています。

以前、むかし買ったコンサートベンチが何度調整してもらってもギシギシ音が出ると書いたことがありますが、それはあいかわらずで、実をいうともうずいぶん長いことそうなので、半ば慣れてしまっていたのです。

でも、ついにピアニッシモの部分で、ギギッ!となったとき、「あっ、このコンサートベンチにハイルーセンを使ったら!?」ということが頭に降りてきました。
思い立ったら矢も盾もたまらず、大急ぎでそれを持ってきて、よいしょと重いベンチをひっくり返しました。

立派な表に対して、裏は意外に雑な作りで、木枠の中に鉄の骨が2組のX状に組み合わされて、それが伸縮して上下調整をしているようでしたので、その可動部分や木と鉄の接合部のボルトなど、思いつく限り注意深く噴きつけました。
そしてそのまま一晩放置。

翌日、ちょっとした胸の高鳴りを覚えながら裏返ったベンチをもとに戻し、座ってみる、果たしてギシギシ音はものの見事に消えていて、どんなに体重を左右にずらしても、まったく音がしません。
それからひと月以上が経過しましたが、その状態にまったく変化なしです。

自動車雑誌によると、トヨタは下請けメーカーに要求するクオリティも、その他のメーカーとはまるで違うとのことですが、このハイルーセンを使っただけでもそのスゴ味みたいなものを実感せずにはいられませんでした。
これはきっとピアノの内部にも役立つすぐれものだと思いますが、悲しいかなマロニエ君のようなシロウトでは試すことはできません。