続ピアノカバー

ピアノは内部がこもったり錆びたりという観点から、できるだけカバーをかけないほうがいいというのは、技術者さん等がほぼ口をそろえて言われます。
のみならず、個人的なイメージでは、カバーの生地そのものが湿度を吸い寄せ、含み、内部へ送り込むような気もします。

それと、あのカバー姿のピアノが発するいかにもな日本式の雰囲気もいやで、いかにもピアノを習っている人がいて、その人のみが与えられた課題を練習し、その先には先生や発表会の世界があるといった、あの感じがどうも…。

ピアノの存在によって、音楽が傍にあるというイメージには必ずしもなっておらず、どこか取ってつけたような存在というか、違和感の中で孤立しているよう。
本を読んだり絵を見たりするのと同じように、ピアノがあって音楽を身近に自然に楽しんでいるという気配はあまりない。
むしろお稽古臭が強く、それをより引き立てているものが一連のカバーだと思うのですが、カバーそのものをかける最大の理由はなによりキズ防止とホコリがしないように…なんでしょうね。
多くの日本人は、音色や音質や表現力には寛容でも、キズだ汚れだとなると世界一なぐらい嫌いますね。

少し話は逸れますが、マロニエ君はピアノの保管状況を考える時、最も基本にしているのは自分の体感です。
温度が何度、湿度が何%かという数字も大事ですが、ピアノによい環境というのは人が快適に過ごせる状態と非常に近いものだと思っており、自分が快適ならピアノも同様だろうという勝手なルールです。
個人的に湿度には敏感なほうなので、まず部屋に入って肌で感じ、それから湿度計をみるとだいたい大ハズレはしません。
室温もあまり急激に上下すると身体がきついように、ピアノも同様だと考えています。

年間を通じて、一般家庭でホールのピアノ庫のような環境を作るのはぜったい無理なので、せめて実行可能なやり方としては、この体感方式はそこそこの妥協点ではないかと考えており、我が家ではずっとこの方式です。
あまり頻繁にエアコンのON/OFFなどせず、長時間出かけるときや夜中はともかく、なるべく一定を保つようにしていますし、季節によって除湿/加湿による調整を加えます。

で、この体感方式から判断しても、一般的なカバーのたぐいはピアノが快適だろうとは思えないわけです。
さらに前回書いたように、カバーは個人的にはビジュアル上も抵抗を感じるから、我が家ではどの角度からも使わないし、ピアノを購入するときも必要ないのでお断りします。

以前おどろいたのは、ネット掲示板のようなところで、技術者の方の書き込みでピアノにカバーを掛けるのは断じてよくない、百害あって一利なしと力説されたところ、猛然たる調子で抗議の書き込みがありました。
おおよその意味は「人には住宅事情などそれぞれ問題があり、貴方のいうようにピアノだけを中心に考えることはできない。我が家はリビングにピアノがあり、キッチンから飛散する油など、いやでもカバーを使用せざるを得ず、そういう個々の実情を無視して、一方的に理想ばかりを書き込み、正論として押し付けるのはけしからん!」といったものでした。

まあ、そういわれれば「なるほどと」は思いました。
でも、それでも、マロニエ君ならカバーは掛けません。
焼肉店じゃあるまいし、毎日油が飛び散るような調理をするわけでもなし、換気扇もあるでしょう。
リビングと言ったって、コンロの目と鼻の先にピアノがあるわけではないだろうし、生活の中でわからない程度に飛散する油ぐらいだったら、蓋を閉めておけばいいではないかと思います。

それを言ったら、該当する方は多いはずで、我が家も厳密に言うとキッチンのある空間の延長上にピアノを置いているし、調理で油を使うこともあるけれど、それでカバーが必要となるほど油が飛んだということはないし、厳密にはあるんだというのなら、そこまで厳格にしなくてはいけないのかという疑問も。
それなら、他のあらゆるモノや家具や家電、天井や壁等にも同じことがいえるわけで、それらはよくて、ピアノだけがいけないということでもないだろうにと、もうひとつ納得がいきませんでした。

結局、なんだかんだと理由はあるのでしょうが、要はカバーをしているほうが安心で好きなんだと思います。

以前、とある輸入ピアノ店のサイトを見ていたら、ドイツ製の世界最高のアップライトと言われる某社の最高機種の注文を得て、やがて実物が店に届き、入念な調整の様子などが写真でも紹介され、その気品と風格はため息が出るほどのすばらしいものでした。
ところが、いよいよ購入者のお宅に運び込まれる日を迎え、めでたく所定の位置に据え付けられました!というショットを見て愕然としました。

その世界最高峰のアップライトは、嫁ぎ先へと届けられ、無事に所定の位置に据え付けられたとたん、上部にはきわめて日本的なハーフカバーがかけられてしまい、その高貴だった姿は、たちまち夜のおかずの匂いがしてきそうな庶民的な姿に変身してしまっており、見ているこちらがいたたまれない気分になりました。
高いピアノだから大事にという気持ちはわかるけど、そんなにもピアノカバーというものが必要なのか、なかったらどれほどピアノが傷むとでもいうのか、マロニエ君はどうしてもわかりません。

ピアノカバーでわからないことのオマケは、フェルトをただ細長く切っただけの「キーカバー」というもの。
キーにホコリが付かないためなら単に鍵盤蓋を閉めればいいことだし、そこへあえてあのフェルトを一枚ぺろんとおくのは何なのか、どんな意味や役割があるのか、どう考えても意味不明。

「これからピアノを弾きます」「これで今日のピアノはおしまい」というけじめのための小道具?
あれをキーの上にかけると何がどういいのか、なかったらどのようなマイナスなのか、もしご存じの方がおられたらぜひとも教えていただきたいものです。