アップライトの防音

この数年というもの、マロニエ君がピアノを弾くのは、大半は自室のアップライトになってしまいました。
なぜそうなのか上手く説明はできないけれど、たぶんそのほうが環境その他で気持ちが落ち着くからでしょう。

自分のピアノのことを書くのはあまり気が進まないので、これまでほとんど触れたことはありませんでしたが、昨年、気に入っていたシュベスターを人にお譲りすることになり、ベヒシュタインのMillenium 116Kというやや背の低いアップライトに買い換えました。

このピアノ、その小さめの体軀に似合わず音が凛として、とても良く鳴ります。
「ピアノはグランドが絶対!」と思っているような人に、一石を投じるような意味でもぜひ触れてみて欲しいようなアップライトです。

さて、自室でコソコソ弾くピアノというのは、元気よく鳴ればいいというものでもなく、音量というよりはしっとり美しい音で練習を彩ってほしいものです。
部屋の窓などが防音をしていないこともあり、周囲への音漏れは気になるところなので、そこで思いついたのが自分でできる防音対策で、あれこれ試してみました。

アップライトというのは、大抵の場合、部屋の壁に寄せて置くのが普通ですが、かといってべったり壁にくっつけるわけにもいかないので、我家の場合は壁とピアノの間隔は約7cmほどにしています。

さて、一般にグランドピアノは音が大きく、アップライトはそれよりはずっと控えめと思っておいでの方もいらっしゃるようですが、具体的に音量計で計測したわけではありませんが、実はアップライトも相当の音量があり、グランドに比べて格段に静かとは思いませんし、仮に近隣のご迷惑を考えたら、そこにグランドだアップライトだということより、建物内のどこにピアノがあるかのほうがよほど問題だろうと思います。
そうかといってサイレントシステムなどは絶対に付けたくなく、実は一台サイレント付きのピアノもあるのですが、あれなら弾かなくていいとなってしまいます。

アップライトで最も音が出るのはどこかというと響板がむき出しになっている背面だろうと思います。
ならば、その背面に布地を垂らしてみようと思い立ちました。

まず試してみたのは、綿の粗い生地のテーブルクロス。
これを前屋根(上部の蓋の部分)にひっかけて、そのまま背後へだらんと垂らすというものでしたが、これが意外にも効果があり、あきらかに音が全体にひとまわり静かになりました。

布切れ1枚で、こんなに違いがあるとは思いもしなかったので、これはまず驚きでした。
ならばというわけで、もっと効果のありそうな布はないかとネットで調べた結果、防災用品専門の店に「完全遮光防炎防音遮音暗幕」というのがあり、遮音効果もかなりあって効果的というふれこみだったことと、布幅がいい具合にこちらが必要としているものとほぼ一致していたので、これを注文しました。

届いたのは、布というより「コーヒーをこぼしてもサッとひと拭き」みたいな人工的な素材で、裏には薄くゴムのコーティングのようなものがされており、繊維というより通気性などないシートという感じで重量もそれなりでした。
さっそく前回同様、先端を前屋根の中に差し入れて、残りはうしろに垂らすスタイルで使ってみます。

すると、まあたしかに音はそれなりに小さくなったけれど、遮音効果がある専用品を謳うわりには、前回の綿のテーブルクロスに比べてそれほどでもなく(つまり大差なく)まずこの点で大いにがっかり。

色は黒なので目立たないから見た目もいいから、効果の面では期待ほどはなかったけれどせっかく買ったんだし、しばらくこの状態で使ってみようと思いました。
ところが、それで10分も弾いているとあることに気が付きました。

さほど音量が抑えられたわけでもないのに、音の抜けが悪くなったのか、とりわけ和音などがぐしゃぐしゃした汚い音になりました。
テーブルクロスの時はそんなことはなく、全体の印象はそのまま崩れることなく、バランスよく音がコンパクト化された感じだったのに、この遮音防音シートとやらは、うまく言葉にできませんが、とても気持ちの悪い、早い話が汚い音になりました。
こりゃあダメだと思い、すぐに取り外しました。

その後も、なんか家にあった変なシートのようなものも試したけれど、最初の綿のテーブルクロスが一番よく、もし少し音量を抑えたいという方はぜひお試しを。
背面のどこまで垂らすか、床近くまでか、10cm上げるか20cm上げるかでも音と音量は微妙に変わるので、効果もあるし、楽しいですから、いろいろやってみられるといいかもしれませんよ。