ショパンコンクールのことを書いてみたことで、自分自身も少し興味がでてきて、その後も少しずつ見るようになりました。
繰り返すようですが、全員なんて到底不可能なので、とりあえず日本人数人(敬称略)の断片的な印象。
[反田恭平]器が大きいことや厚みのある技巧は申し分なく、ソリストとしての押し出し感もあり、独特の野趣までもが魅力になっている人。
音楽作りは緻密で周到、演奏そのものはクオリティが高い健康男子的。
これまでの日本人ピアニストに比べ、なにかと規格外であるのが新鮮で頼もしく、そのスケール感のある手さばきは爽快ですらあるが、逆にシンプルなものを温かく歌い上げて聴くものの心をいざないうような力はもうひとつか?
普段の言動からピアノを演奏する姿勢まで、わざとらしさがなく、この人なりの自然と必然が確固としてあって、その物怖じしない様子まで含めて新しい時代の到来を感じさせる。
ただ、ショパン演奏者として適正かどうかは、やや疑問の余地はあるようで、だからこそ今回ショパンに取り組んでいることが、一つの挑戦のようにも思える。
[角野隼人]音大などを経ず、主にYouTubeで有名になった異才の持ち主で、独特のセンスがあり、編曲や即興など幅広い才能をお持ちの、今まさに時代の寵児たらんとする人。
通常の音楽教育路線を歩んできた人とは一味違う才気とおもしろさがあって、ともかくその人気は絶大だとか。
そんな絶大な人気者に対して苦言を呈するのは躊躇されるが、あえて批判を覚悟でいうなら、指もよく動くしテクニックも相当のものがあることに異論はないものの、あらためて同じ舞台で他の人と聴き比べてみると、やはり音楽一筋でやってきた人とは違うところ…こういう言い方をしていいかどうかわからないが「猛烈に上手いアマチュア」という感じがどこか漂い、プロの演奏としてはもうひとつしっくりこないものが常についてまわって、個人的にはそこが気になる。
たとえばスケルツォの1番とかエチュードop.25-11などで見られる、速いパッセージでの分離の良い爽快な指さばきなどは一聴に値するものではあるけれど、聴いていて立体的なメリハリや曲進行の見通しのようなものがもうひとつで、また、タッチや音色のコントロールなどもやや平坦な感じ。
マロニエ君は、ピアニストになる人が幼少の頃からピアノ一筋で人間的にも偏った育ち方をして、音大に行って、留学して、…というお定まりのコースを歩むべきなどとは微塵も思わないし、だいいちそういうステレオタイプはむしろ嫌いなんですが、現実にそういう人達と比べてみると、これ一筋にやってきた人達の持つ鍛え込み(好きな言葉ではないけれど)がやや足りないと感じたりする。
[牛田智大]小さい頃から注目され、たしか浜松コンクールでも好成績を収めた人。
とても上手いのだろうし、どれもそつなくまとめてはみせるけれど、なにか意識し過ぎなのか、やや表面的。
曲の深いところに迫るものが薄く、音もドライで、聴いていてなんだか妙な苦しさが伴います。
この人の信じているもの、感じているものが何なのかがもうひとつよく伝わらず、ピアニストとして大成するためのエネルギーばかりを感じてしまうのは…私だけでしょうか?
もちろん、それを言えば他の人も概ね同様ではあるだろうけれど、この方にはとりわけそれをダイレクトに感じるし、それが演奏の魅力を翳らせてくるようで、惜しいような気がするのは見方が意地悪だったらごめんなさい。
むかしから、日本には日本だけで活躍する国内専用ピアニストみたいな人がいるけれど、彼もそのタイプかも。
お顔もカワイイし、キュッとした笑顔も決して忘れないようですし。
[小林愛実]小さい頃から注目された人といえば牛田さん以上のお方と思うけれど、潜在力がひとまわり違っていたような印象。
これまで長らくは、上手いんだろうけれどいかにも日本人的な技術偏重タイプの演奏や、上半身を曲げたり反らせたりの大仰な動きなどが苦手だったけれど、今回のショパンコンクールではまったく別人のように抑制的で、端正ですらあり、こんな変貌もあるんだなぁと唸ってしまったが、逆にムリしすぎていないかと心配になったり。
それでも、そのへんが変わってくると演奏にも連動してくるのか、よけいな力技の誇示が影を潜め、あるべきものがあるべきところにあるといった心地よいものになり、一度あったものをここまで作り変えるのは、ご本人も指導者も相当な努力だっただろうと思われる。
ただ、残念なのはタッチや音色のことではなく、全体の音量がいかにも軽量で、それがこういう大コンクールではどうなんだろうと思ってしまいます。
1次か2次かわからないけれど、スケルツォの4番などは素晴らしい演奏だったけれど、幻想ポロネーズは慎重なばかりでこの曲に求められる荘重さがなかったし、アンダンテスピアナートと…でも、どこかピントが合っていなかったような印象をもちました。
[ヤコブ・コシュリク]ひとりだけ外国人を入れると、下馬評での優勝候補と目される人だとか…へぇぇ。
なるほど上手いし、完全武装のような演奏は高評化に繋がるだろうし、ましてポーランド人ともなれば優勝筆頭候補なんだろうけれど、個人的には好きなタイプのピアニストではない。
昔の例を出すなら、ギャリック・オールソンがそうであったように、あまりに大柄なピアニストというのはどこか共通するものがあって、すべてを手の内に収め込んで内向きに処理してしまうようなところがあって、精神的身体的にギリギリのところに寄せていくような体当たり的なスリルがなかったり。
自分の好みでいうと、とりわけショパンでは痩身のピアニストが全神経と趣味の良さで内的ななにかを告白するようなものが好きだから、こういうピアノが小さく見えるような人によるショパンというのは、個人的な好みとしてときめきません。
いずれにしろ安定した大物だなぁと思っていたら、2ndステージの演奏ではかなり不調で精彩を欠き、おや?これはわからないな…という気もしてきたり。
コンクールの方は後半に入り、いよいよ精鋭たちばかりの戦いになってくるようですね。
名前はわかりませんが、中国系カナダ人みたいな人も悪くなかった印象でしたが、3次には入っているんだろうか…。