続・オトコの性分

オトコの性分というからには、やはりピアノの技術者さんにもちょっと触れてみたくなり、ほんの一部だけ。

この世界は、技術=男性という昔のイメージを引きずっているためか、まだまだ圧倒的に男性が多く、女性はかなり少ないと感じます。

そんな男性ばかりの中、めったにおられない女性の技術者さんに接する機会がありましたが、やはり前回の医師の例と同様、ここでもはっきりと男女のちがいを感じることに。
ただの雑談なら女性全般はおしゃべりが上手で自然だけれど、仕事や専門分野となると一転して、男性よりよほど口数が抑えられて静かに集中してお仕事をされる印象です。
男性は説明すること自体が好きなのか、専門的なことほど饒舌で嬉々となるけれど、女性は専門的なことは必要なこと以外、なにもかも言葉にする必要はないと感じておられるよう見受けられます。

男性は自分の知識を語ることや、専門家として頼られたりが好きで、一度困難であることを充分伝えた上で自分だから解決できたなど、相手の不安を煽っておいて安心させたりと、とかく自己アピールには余念がありません。
それを含めての雑談のようですが、女性は雑談はあくまで雑談で、仕事とはきっぱり区別されているような潔さがある。
男性は雑談/仕事の境界があやふやで、おまけに自意識みたいなものが常時うごめいており、なにかと自己宣伝に結びつけるのが習慣となっている人が珍しくないと思います。

中には本業の技術より、トーク術のほうがよほど得意な方もおられ、ピアノの技術というのは一般的にすぐわかりにくい面もあるためか、徹底して人当たりのいい誠実一途な演技を貫き、その巧みで耳触りのいいトーク術によって成り立っていることもあったり。
それでもお客さんを良い気持ちにさせて仕事には困らないという、違った意味のテクニシャンもおられ、男のジマンもここまで行けばひとつの才能かもしれません。

そんなことを言いつつも、お陰でどれほど多くの勉強をさせてもらったかわからないのも事実で、感謝もしているのですが、ここで言っているのは感謝とはまた別次元の話ですのでそこは悪しからず。


…と書きながらふと思い出しましたが、技術者さんの専門的な話は、興味ある者にとってはおもしろいことが多いのも事実ですが、それでもマロニエ君が言われてあまり気持ちの良くないワードがあったりします。
それも男性特有のもので、いちいち「名前は言えませんが」「メーカーは言えませんが」「場所は言えませんが」という、言えませんがずくしでお話されるタイプ。
おっとりした方はあまりそれは仰いませんが、こういう前置きが好きな人はだいたい自己愛の強い宣伝大好きさんです。

それも自然なことなら受け入れられるのですが、大半は「え、なんで?」「べつに言ってもいいのでは?!」と思うようなことでも、この「…は言えませんが」がほとんど呼吸のようにクセになってしまっている。

マロニエ君は別になにがなんでもそこを聞きたいというのではなく、こういう話の切り出し方に違和感を覚えるということで、むやみにもったいぶって楽しんでいるようにしか聞こえません。
本当に言えないことなら、そこをうまく迂回して話をする方法はいくらでもあるはずです。

例えば普通に「ある先生のお宅に伺った時に」ですむことを、「これは…ちょっっとお名前は言えませんが、実は先日も、かなり有名な先生なんですが…」とえらく大げさにいうのは、言葉のチョイスのセンスがないばかりか、言えないという言葉を口にする時が、心なしか嬉しそうでささやかな快感が潜んでいるようです。

自分の話は、現場人しか知り得ないとっておきのウラ話で、それを特別に教えてあげましょうという得意の現れで、それを含めて気分がいいんだろうなと感じるわけです。
さらに、自分は知っていることを、目の前の相手は知ることができないという「差」が生まれ、その権限は自分の手中にあり、それを行使できるところに子供の駄菓子ほどの優越感があり、それが見えてしまっていることを、ご当人はまったくお気付きじゃないご様子。

マロニエ君に言わせれば、名詞だけ伏せても具体的な事象をべらべら喋っている段階で、秘守義務はすでに一部破られていると思うのですが。

それと男はビビリさんで保身が身についているから、万が一、自分がその情報漏洩の発信源になることをなによりも恐れ、予防線を張っておくというのも気持ちとしてはわかりますが、それは裏を返せば、こちらが思慮なく安易にバラす可能性があるという危険を前提としており、自分は目の前の人から信用されていないという事実を鼻先につきつけられているようで、これも対人マナーの上では非礼の一種であると思うのです。

言えないことは、言い換えなどの処理を声に出す前に頭の中ですべきで、相手を前に書類を黒く塗りつぶすような発言は良策とは思えませんが、この手のオトコは言えないと言うのが快感だから打つ手なしです。
「そんなに言えないような話なら、はじめから聞かなくて結構です!」と言ってやりたいところですが、実際にはそう切り口上で返すわけにもいかないので、まだそう言ったことはありませんが。

こういう話し方は、分別ある大人のつもりでしょうが、むしろ子供っぽくしか映りません。
えてして、男の用心深さにはそういう幼稚で肝心なものが抜け落ちているところが往々にしてあり、思慮深いつもりがまるで逆になっている場面は少なくありません。
それもこれも、ジマンしたいという邪念のなせる技でしょう。

女性の口からこの「言えませんが」を聞いた覚えはほとんどないのはナゼか?を考えることはおもしろそうです。

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※何気なく読み返したら、ややキツい感じの文章になっていたようで、そんなつもりはなかったのですが、感じていることをできるだけ文章にして説明しているうちに、ついそうなってしまったようです。
とはいえいまさら書き直すのも大変なので「他意はない」ことをお伝えしてそのままにさせていただきます。