シンメル椅子

暇つぶしにヤフオクを見ていたら、シンメルの椅子という珍品が目に止まりました。

シンメルはドイツ最大のピアノメーカーとされており、車でいうとフォルクスワーゲンみたいなものでしょうか?

日本ではドイツピアノといえばいくつかの最高級クラスばかりが有名で、それ以下の価格帯は国内大手メーカーが一手に担っているので、シンメルは出会うチャンスは極めて少ないようです。
2〜3度、ちょっと触ったぐらいの経験しかありませんが、ヤマハでいうとSシリーズ、カワイならSKシリーズぐらいのピアノメーカーというイメージで、おぼろげな記憶ではドイツ製品らしい堅実で確かなピアノという感じだったような。

マロニエ君は個人的に、いわゆる高級メーカーのセカンドブランドというのはピアノにかぎらず嫌いだから、その辺を狙うのであればシンメルなどはよほど検討の余地あるメーカーじゃないかと思いますが、どうこう言えるほど詳しくもないので、あくまでイメージですが…。

あ、今回は椅子の話でしたので、そちらに戻ります。
出品されていたのは背もたれのないコンサートベンチ風のデザインで、色は茶系、座面はベロアのファブリック、足には細かい溝などが丁寧に彫り込まれており、中古ですが目立ったキズや痛みなく、使用感もなくはないけれど大切に使われたのか、全体的にいい感じでした。
高さ調整は、よくある丸いつまみではなく、手動の鉛筆削り機の取っ手のようなものを回すタイプで、それがまた繊細な感じでした。

オークションの終了は深夜でしたが、狙ってしまうと朝からそわそわします。
幸いあまり注目されていなかったようで、当方を含めて4件の入札の結果、望外に安く落札することができました。
ただ、送料のみで5000円以上!とずいぶんかかりましたが、物が大きく出品者の方が遠方で、まさに列島縦断という感じだったので、そこはやむを得ないところでした。

開梱してみると、足は取り外された状態だったので、まずは組立作業。
あれ?と思ったのは、どこにもSCHIMMELという表記がなく、この点については確認する手立てがありませんが、細部の造りや木目の塗装も美しく、座面は4/5/4と13個のボタンで止められており、ファブリックの感じもしっかりしたものでした。
というわけで、思いがけず良い買い物ができたと満足しています。

ところが、まったく問題がないわけではなく、マロニエ君は椅子の高さが低い方なのですが、この椅子は最低でも少し高めで、そこに若干の残念さがありました。
しかし、足は上記のように装飾も施されているし、下部にはそれぞれ金具までついているような作りなので、これを切り落とすのも気が引けるから少しガマンするか、どうしても低くしたい場合は木工職人さんにでも相談してみるか…。
ただ、座り心地はファブリックだけにとてもよく、ある意味、革よりも好ましい感触です。

ちなみに、車のシートでも部屋のソファーでも、素材は「本皮」が最高級と思っている人が昨今とても多いようですが、本当のフォーマルというか格式あるものは昔からファブリックであり、例えがいささか大げさですが皇居や国会の椅子、歴代天皇の御料車などはシート素材は伝統的にファブリックしか使われず、決して皮は使われません。

1980年代ぐらいまでのベンツは、内装やシートの素材で最も格上なのは目の詰まったベロア仕様で、レザーはその下の扱いでしたが、時流には逆らえないのかレザー人気には抗しきれず、現在ベロア仕様は姿を消したみたいです。
ファブリックのいいところは、表面の当たりがいかにも優しいことと、革のように滑らないので包み込まれるような安定感があります。

皮のシートのあのヒヤッと冷たい感じと滑る性質は、皮は高級というイメージに掻き消されるのか不思議なほど問題にされませんが。
そういえば象牙鍵盤が珍重されるのは、希少性もさることながら、その風合いや汗を吸って滑らないという実利も兼ねているようですが、かたや滑るレザーを大好きだったりするのは笑ってしまいます。
いずれにしろ、これらは生き物の犠牲の上に成り立つものであることも、当節なら考慮すべきかもしれません。

〜なーんて、自分はヤフオクで中古品をお安く買っておきながら、こんなエラそうな話をするのは甚だ滑稽で、もし他者がそういうことを書いていたら、マロニエ君もまちがいなくそう思うと思います。
それはそうなんですが、ともかく皮というのは、本来の格式としては最上ではないということを書いておきたかったしだいです。

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