技術者さんの腕の差というのは、純粋な技術の巧拙のことはもちろんですが、それをどう用い、どう活かす人であるかによって結果は大いに違ってくるもの。ピアノは音だけでなくこまごましたことまで一人の方にお願いしなくてはならないこともあり、単純に判断するのは難しいところがあると思います。
高い技術を持っている人でも、自身の判断であれこれ省略してしまう方から、やれるだけのことは精一杯やるという誠実タイプまで、いろいろいらっしゃいます。
また技術はそこそこでも、アイデア精神が旺盛で、しっかり考えて解決に導く方、自分のやり方に固執する割には大した結果の上がらない方、常識的な時間内で目覚ましいばかりに仕上げる方など、本当に十人十色だと思います。
マロニエ君が思うに、もちろん高い技術は必要なことは当然としても、それだけでは充分ともいえず、あとは応用力や問題解決のための方策の引き出しをたくさん持っている方、それらを一言で言うなら、やはり誠実で柔らかい考えの持ち主であることとセンスの問題、これに尽きると思うのです。
例えば、ある人はペダルからの異音に悩まれ、それが何度技術者さんに訴えても原因の特定が難しく、芳しい結果が上がらぬまま、ほぼお手上げというところで終わり、ながらくそのまま我慢しながら使わざるを得なかったとか。
整調調律整音にかけてはとても上手い人で、かなりの自信家でしたが…。
しかし、そのピアノだけを弾くしかない持ち主にしてみれば、弾くたびにベダルの雑音が気に障って仕方がない。
そこで、別の技術車さんを呼ばれることになりました。
というのも、何度やっても解決できない人は、発想や方法に限界があるから、これまでの繰り返しで解決は見込めないと思ったからです。
で、別の技術者さんを紹介しました。
こちらはとにかく真面目一筋な仕事をされ、性格的にも非常におだやかなお人柄。
結果はというと、なんとこの方は初回訪問で見事にそのペダルの異音を直してしまわれたのです。その原因は具体的になるので書きませんが、固定観念にとらわれない静かな原因究明の成果だろうと思います。
音に関しては先の技術者さんにはやや敵わないようですが、ピアノ技術というのは総合的なものでもあるので、こういうケースを見ると技術者さんのチョイスというのも決して簡単ではないことがわかります。
また、あるグランドピアノは子供が触る環境にあるため、時に鍵をかけておく必要もあるのですが、鍵をまわしても、なぜかフックの先があらぬところに微妙に干渉して、どうしてもカギをかけることが出来ません。
これも技術者さんに幾度かお願いしたものの、ピアノのカギ部分はボデイに完璧に面一で埋め込まれているために調整する幅がありません。よって解決は「無理ですね」という宣告を受けて終わりました。
しかしどうしても鍵をする必要に迫られ、別のボディの修復などをやっておられる技術者さんに相談して来ていただくと、前屋根の鍵穴が付いている木の棒をネジを緩めて外し、再び組み付けますが、これをやると完璧には前と同じ位置にはならないのだとか、
しかし前框にあるパーツの方は完全固定で動かしようがないので、どうなるのかと思ったら、今度は前屋根と大屋根をつなぐロングヒンジを凝視し始め、そこでわかったことは経年変化により、その長い棒状の金属部分と屋根の位置が微妙にズレてきていることを発見。
それらを外して、ほんの僅かではあるけれどきれいに調整して組み付けると、これら2つの作業により、鍵は見事に使えるようになりめでたく解決の運びとなったのです。
1980年代のピアノであるために、微妙な経年変化でこういうことはままあるのだそうで、こういうことは適確な原因究明と処置なくして解決はあり得ず、やはりそれぞれの得意分野というか、これは経験や性格などを含む奥の深い問題だとも思いました。
もちろんピアノ技術者さんは、第一には音でありタッチであり、そのピアノの最大限の良さを引き出して弾く人の喜びを満たし、楽器の健康を保つことが最大使命ではありますが、でも、それだけでも困ることも実際はあるというわけです。
ピアノに限りませんが、できない人は経験に乏しく、やわらかい発想力がない、そのためにピントのズレたことでいじりまわして、時間はかかって物は痛み、芳しからざる結果にしか至りません。
マロニエ君としては、技術車さんは、お一人に義理立てしいても何もいいことはないということで、何人かの技術者さんと同時並行的に上手にお付き合いされることをオススメします。