何が起こったのか?

自宅でお預かりしている貴重な広島製ワグナーですが、早いもので運び込んでから10ヶ月が経とうとしています。

いらい、最もよく弾いているのがこのピアノですが、それはなにより触りたくなる魅力があるから。
部屋のスペースの関係から、もう一台のグランドと前後互い違いに向き合うよう近づけて置いていますが、ワグナーは若干高さが低めで、そのために前屋根を開けるともう一台に干渉してしまうため、そこにいつもマットのようなものをあてがっています。

小さなキャスターと、インシュレーターもペラっと薄いプラスチック製のものであることも、さらにその点を助長しているようでもあるし、そもそもやはりボデイ全体が若干低めであることも間違いないようです。
思い起こせば大橋デザインのディアパソンも似た感じだったので、昔のピアノは概ねそういうものだったのかもしれません。
これは古い日本製ピアノだけの特徴なのか、海外のものも同様なのか、そのあたりをしっかり確認したことはありませんが。

最近のことですが、たまたま出向いたホームセンターで別のものを探しているとき、直径12cm、厚さ12mmほどの、丸い木のパーツがあるのが目に止まり、とっさにワグナーピアノのことが頭に浮かんだのでこれを3枚買って帰り、後日インシュレーターの下に敷いてみました。
インシュレーターのほうがわずかに直径が大きいので、丸板はほんの少し内側に隠れるような感じです。
ピアノほど大きな楽器でも、全体がわずか約1cm上がるだけで、なんとなく違った印象になるもので、鍵盤の高さはむしろ好ましい感じですが、困るのはペダルも上にあがり、少し勝手が違う感じになったり。

まあそのへんは、慣れの問題もあるでしょうし、どうしてもイヤならペダルの下に板でも敷けば済むことですが。

本題はここからで、実はそれどころではない副産物的な変化があったのです。
その小さな丸板を敷いたことで、あきらかにそれ以前より鳴りのパワーが向上し、この思いがけない変化に驚くと同時に、これはいったいどういうことなのか?

それまではカーペット敷の床の上に、プラスチックのインシュレーターをかませてキャスターが載っていたわけですが、その下に小さな板が介在したことで、ピアノの鳴り方にどのような作用をもたらすのかマロニエ君にはてんでわかりません。
わからないけれど、それ以前よりもあきらかに力強い鳴りになっており、これは勘違いでなしに間違いなく起こった変化だと思うのです。

この手のことに研究熱心な技術者の中には、インシュレーターの素材や形状にこだわって、しまいには独自の考えを反映させた製品まで作っているようなケースも見た覚えがあるし、たしか昔のディアパソンには(音のための)高級素材を使った、ずいぶん高価なインシュレーターがあったようにも記憶しています。
正直いって、それらはまったく根拠の無いこと…とまでは思わないけれど、一度借りて使ってみたこともありますが効果についてはほとんどわからず終いでした。

ところが、今回のように思いがけずハッキリした変化を経験してしまうと、インシュレーターというか、床とのピアノの接触方法に着目して研究する人の言い分にも一理あるんだろうという気がしてきました。機械モノ全般に言えることとして、ある理論や方策がすべての場合に等しく効果があるとは思えませんが、特定の条件とか、個体との相性など、なんらかの偶然が重なった時には、思わぬ効果が表出することも事実だろうと思います。

車でいうとアーシングだとか、最近では静電気の除電による性能向上といったことが叫ばれていて、マロニエ君もやってみたけれど、意識すればそうかな?と思える程度のもので、決して劇的な効果ではありません。
車は絶対数がピアノの比ではないから昔からこの手のマニアや研究者も多く、性能向上のためのあらゆるアイデアと試行錯誤が繰り返されてきましたし、多くのアイテムが製品化されて販売もされましたが、効果はあるようなないような微妙なものが大半で、それをオカルトだと冷笑する向きも多いのです。

それでいうと、マロニエ君は昔からインシュレーターなんぞに音質や響きの違いを求めるなんて、オカルトだと思っていたわけですが、さすがに今回の変化は、そうとばかりも言えない変化を体験してしまったわけです。

一般に、この手の効果は、微々たるものであるために数日経つと耳や感覚も慣れてしまい、やがて違いも感じなくなるものですが、今回ばかりは数日経過しても、あきらかに力強く、明晰に鳴るようになっているのは間違いない(と感じる)ので、やはりなんらかの作用があったのだろうと思われます。

ではどのピアノにも同じ効果があるか?といえば、それはわからないし、むろんオススメもできません。
今回の件は、たまたま我が家固有の条件にスポンとはまった、きわめて偶然性の高い結果だろうとは思っていますが、ごくまれにこういうことがあるんだということはわかり、貴重な体験ができました。

その後に来宅された調律師さんにそのことを伝えると、それは時々「ある」ことで、2台並んでいるピアノに同じことをしても明確な効果があるピアノと、鈍感でまったく変化のないピアノもあるとのことでした。
あるピアノのオーナーは、その変化に感激して、しばらくこれで弾きたいから申し訳ないが今日は調律はせず、このままにしておいて欲しいというたっての要望で、なにもしないで帰ってこられたこともあったとか。
簡単に説明のできない不思議な事ってあるもんだと思いました。

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