SK-EX補足

SKシリーズは今やカワイピアノの顔であり、世界的にも良品として認められる地位を獲得していると聞きます。

そんなSKシリーズについて、今回はアマチュアのピアノマニアとして、甚だ邪道な、大半の人にとってはどうでもいいであろうマニアックなことを書いてみます。
SKシリーズを目の前にしていつも感心させられるのは、製品としての作りの良さ。
とりわけ各パーツの面や線の一糸乱れぬ正確なこと、くわえて塗装の美しさには目を見張るものがあり、それらが醸しだす高級感は、メーカーがこのシリーズに懸ける意気込みを感じます。
それは高度な木材加工技術によるものなのか、なんらかの下地処理や工法によるものなのかは知らないけれど、とにかく仕上げのきれいさで際立っているのは驚くばかり。

巷では「ざんねんな☓☓」という絵本が流行っていますが、その「ざんねんな」も含めながら言いますと、側板の内側は通常よくある木目の突板(化粧板)ではなく、バーズアイという高級素材が奢られているようですが、これが模様といい色目といい、どうにも中途半端で高級感に効果を上げているようにはどうしても見えません。
模様は小さく色付けは薄いためインパクト性に欠け、遠目には普通よくある木目よりも安っぽく見えてしまうあたり、ファツィオリなどとは対照的でなんとも残念。

それに対して、フレームは以前は青系のあまり魅力的とは言い難い金色でしたが、現在は流行りの赤みの強い色調に切り替えられたようですが、これが思い切ったのでしょうがやり過ぎで、ほとんどオレンジ色みたいな色目。
中国のハイルン、ウェンドル&ラング、フォイリッヒなどがこういう感じで、いささか品位に欠けていただけません。
また、フレームをその色にするのなら、当然そのすぐ脇にくる側板の内側のバーズアイとのカラーバランスを考慮すべきところ、これがまったくなされていないのか、ジャケットとパンツの組み合わせが下手な人の着こなしのよう。

ボディ内側に貼られる木目は、色のルールから言ってもフレームよりも濃い色目であるほうが見た感じも収まりがいい筈なのに、カワイにはそんな色が醸し出す雰囲気に配慮のできる人がいないのでしょうか…。

逆にいいなと思うのは、フェルトの赤の色合いで、多くのピアノが派手な朱色のような赤であるのに対し、SKのそれはややくすんだ感じの深みのある赤になっているのは、抑制的で大人っぽく、これは非常に好ましいものだと感じます。
ただし上記の激しいフレームの色のせいで、その良さもだいぶ埋没してしまっていますが。

全体に、カワイのピアノに感じるのは、とくにコンサートグランドの場合、ディテールも全体も、ちょっとゴツいかな?というイメージが拭えないところでしょうか。
側板もなんでこんなに?と思うほど分厚くて、まるで戦艦大和のよう。
ヤマハも多少そういうところがないでもないけれど、カワイはもう一回り大きく厚ぼったく、なんでも薄めで華奢にできているスタインウェイに比べると、どうしてこうもマッチョに作りたいのか理解できません。

SK-EXは、どうも昔のKG-8の頃のままの基本形状のように見えるし、おそらく痩身なスタインウェイDは、寸法的にはSK-EXの中に前後左右すっぽり収まってしまうと思います。
ピアノは楽器で、楽器には軽やかさが必要なのに、こうもゴツくするという発想じたいが、どうもわかりません。
例えばヴァイオリンをストラディヴァリウスよりやや大きめに肉厚にガッチリ作ったら、頑丈かもしれないけれど音が良くなるなんて誰も思いません。
銘器というのは、おしなべて贅肉をそぎ落とし、技を駆使してギリギリの危ういところで成り立っているものじゃないかと思います。

こんなふうに書くと「ピアノと弦楽器は違うんだ!」という声が聞こえてきそうですが、木の性質を使って音を増幅させ、飛ばすという基本においては、大筋で大差ないと思うのですが。

以前も少し書いたことですが、日本製のピアノは運送業者が喜ぶほどやたら頑丈にできているらしく、対して、海外のピアノの多くは全体が響体という考え方なのか、華奢でボディもユルユルなので気を使うのだとか。
例えばスタインウェイの場合、クレーンで吊るにしても決して支柱にロープなどをかけてはいけない(無知な業者はやってしまっている由)そうですが、そういう繊細で危ういところからあの輝ける力強い音が生まれているとしたら、楽器とはいかにバランスが勝負どころかと思います。

おかしな喩えですが、飛行機は空を飛ぶために軽量化と効率が必須で、そのためには最高難度を極めた必要最小限の作りであることが求められます。それに比べれば頑丈に作るのは簡単です
楽器は空は飛ばないけれど、音は遠くへ飛ばしたいわけで、なにか通じるところがあるような気がするのです。