イタリアのBECHSTEIN-2

先月終わりに書いた「イタリアのBECHSTEIN」から、ほぼひと月が経過しました。
その後もBECHSTEINの情報が続々ともたらされ、さすがは本場とあらためて驚かされるばかり。

1 ▶まずは写真を掲載していたC型(220cm)を見に行かれたようです。
うっすら埃をかぶっている状態で、調律もかなり狂っていたなどで、そのときは好印象には至らなかったとのことで残念な結果でした。
話だけでは、正直、それぐらい大したことではないのでは?という気もしましたが、その場でしかわからない何かがあったのかもしれず、ピアノのような大きな買い物には、人それぞれのエモーショナルなものが深く関わるので、その大事なところは現場でないとわかりません。
ちなみに、試弾の際、所有者など複数の方がすぐ側で見ていたなどの悪条件も重なったようです。
せめて4〜5分は退室して自由に弾かせてほしいものですが、そういう引っ込み思案なことを考えるのは日本人だけでしょうか?

こういうとき、技術者が同行できれば心強いでしょうが、見ず知らずの技術者にいきなり頼めることでもなく、素人の自分が、ひとりで決断するというのは荷が重いことだろうと思います。

他の情報も続々ともたらされました。

2 ▶別のBECHSTEINのCで、さらに古いピアノ。これはハンマーは良好な感じであるし、ウイペンはダブルスプリングに交換済みではあったけれど、かろうじて写っている弦やピンはかなり古い感じで、しかもそのあたりは見せたくないのか写真はなく、おまけに響板割れがあることを初めから告知されている個体でした。
形状からして19世紀のピアノと思われますが、全体にもくすんだ骨董品という趣で、見ていてあまり良さが伝わらない印象でした。
さらに気になったのは正面からのショット。
鍵盤蓋のロゴが字数の多い旧タイプにもかかわらず、その大半が失われ、「C.BECHSTEIN」の位置も不自然で、購入したら苦労するぞと言っているようなピアノでした。

3 ▶ピアノショップが販売する「整備済み」とする200cmのBECHSTEIN B。これは塗装などもパッと目は整えてあって一見きれいに見えますが、ビデオを見た感じでは(想像ですが)古い塗装を完全に落とさず、中途半端な下地に塗り重ねたような怪しげな感じを覚えました。
また、交換済みというハンマーなどはフェルトだけを巻き直したもので(そのこと自体は問題ではありませんが)、形も止め方もあきらかに形がおかしく並びもバラバラ、ペダルはなんとまったく別のピアノ(たぶんヤマハ)のものを強引に取り付けてあるし、鍵盤蓋のロゴは文字が一部欠損していたりと、これまた怪しげな要素がいくつも見て取れるものでした。
にもかかわらず、音はそう悪くもない感じだったのは意外でした。

4 ▶さらに別に個人所有のBというのがあり、これは初めに見た写真では、弦もハンマーも交換済みで、鍵盤一式も大部分が新しいパーツで構成されており、技術者の手間とコストがそれなりに注がれているようで、とても良さそうに見えたのですが、続くビデオや詳細な写真で印象は一変しました。
まずなにより音がボケており、本来のパワーもなく、響板が下がっているのでは?と思いました。
その所有者による演奏動画もあったけれど、とにかく速いスピードでピアノロールのように弾かれるだけで、一音一音の感じはほとんど掴めないものでした。
またハンマーはきれいなものが付いているにもかかわらず、よくよく見てみると、次高音のセクションのみえらく削られて薄くなっており、やはりそのあたりに問題があって試行錯誤を重ねたけれど、諦めた末の売却では?というような疑念さえ持ってしまいました。

5 ▶さらにさらに、トドメとばかりに合唱の練習に使っていたというAが出てきました。これは今回最安値の€2500(約35万円!)で、さすがにあまりきれいではなかったけれど、キレのあるBECHSTEINっぽい音はそこそこしていたので、値段から見ればこれはこれでアリか?とは思いました。ただし、フレームはじめお世辞にもきれいとはいえないし、響板にはパックリと割れがあったので、手を入れるとなると、ほとんどオーバーホールもしくはそれに近いものになることは間違いありません。
電子ピアノにもうちょっと上乗せするぐらいで買えるBECHSTEINとして、迷いなく割り切りができれば、それなりの音は出ているので、価格相応の価値は十分にあるとは思いますが、欲しいか?と問われればあまりそそりません。

そうこうしているうちに、その方は10日ほどお知り合いの方のお宅に滞在されることになった由ですが、そこにはなんとブリュートナーのグランドがあり、これがたいそう素晴らしいらしく、いたくお気に召された様子で、このぶんだとブリュートナーもかなり射程圏内に入ってきた模様です。
すでに、ベヒシュタインと前後してブリュートナーの情報は2件寄せられており、やはりヨーロッパはこの手のピアノの数といい、価格といい、本場の強みを感じないではいられません。

上記の5台のベヒシュタインとブリュートナー計7台は、大半が50万円〜80万円ほどですから驚くばかりです。
そのままでも十分使えるピアノがあればそれに越したことはありませんが、仮に予算を200万円ぐらいに設定して、購入額の残りを修復代に当てたら、さぞや素晴らしいピアノが出来上がるであろうと思われます。
それでも日本で売られている同等品に比べたら1/3ほどで手に入れられるわけで、日本から見れば望外の話です。

このピアノ購入の顛末はまだまだ続きそうなので、またご報告できればと思っています。