イタリアのBECHSTEIN-4

予想通りというべきか、思いがけなくというべきか、やはり一台目のBECHSTEINはとにかくいい感じでした。
このぶんなら、これに決定するだろうと思っていたのですが…。

思わぬところから、難しい問題が起きました。
購入後のメンテを依頼する目的で、たまたま目にしたというローマ市内のピアノ店にご夫妻お揃いで行かれたところ、「古いものは(とくにグランドは)修理などが大変である」「ねずみの死骸があったりする」「音程が低くて思うように弾けないかも」「遠方からでは運送費用や事故の危険もある」などとさんざんマイナスな話を浴びせられたあげく、ドイツピアノが好きならということで、そのショップにあるペトロフを勧めてきたんだとか。

それですっかり意気消沈されたようで、とくにご主人は古いピアノへ懐疑心が高まったようです。
とくにこういう話は、理屈に弱い男性脳のほうが打撃を受けるものでしょう。
たしかに、ピアノは専門性の高いものだから、技術のプロから具体的にあれこれと否定的な要素を並べられたら、大半の人は反論もできず、相手側の一方的な話の独壇場になる。
ほんの僅かなことでも、さも一大事のように大げさに、専門家が豊富な現場経験として言うのですから、この状況になると為す術はなく、心はボコボコにされていまします。

しかし、私にいわせれば、肝心なことは購入時の見立てであって、そんな話をさほど真に受ける必要はないと経験的に思うし、昨年は立て続けに私の身近で3台もの古いピアノ(業界的にはガラクタとされるものも含む)を買ったにもかかわらず、入念な整備によってどの一台も問題なく、新し目の量産ピアノには到底望み得ない芳しい音で弾き手を魅了しています。

この手のショップは(日本でもそうですが)考え得る最悪のケースを想定してバンバン不安感を煽ってくるので、それを聞かされた側は大半は諦めてしまうというパターンです。
もちろんそれらが全て嘘だと言うつもりはありませんが、それは本当いひどい状態の場合であって、それを可能性として尤もらしく迫って来られると、不安にかられて自分が考えていたことは間違いだったようだ…という気になります。

おまけに、それは本当に購入者の為を思ってというより、あれこれのリスクを並べ立てて脅しておいて、ちゃっかり自分の店から買わせたいだけのことで、商売優先の言い草だと心得るべきでしょう。むろん相手も商売ですから、それが罪とも間違ともいえませんが。
ただ同じピアノが、もしも自分の店の在庫としてあったなら、チョチョッと手を入れて、クリーニングなど見栄えを良くして、数倍の値段で売りつけることでしょう。

しかも、そこへペトロフを勧めてくるあたり、お客側にしてみればいい迷惑で、それがたまたま気に入ればいいけれど、ショップの言うことを信じたばかりに、望まないピアノを買う羽目になり、それを毎日弾くストレスともなれば取り返しがつきません。

それにしてもドイツピアノが好きならペトロフは?なんて話、初めて聞きました。
ペトロフは私に言わせると、完全にスラブ系のピアノで、ドイツ系とは似て非なるもの。
要するに、ショップにしてみれば今にもピアノを買いそうなお客が来て、他で買おうとしているのだから、そうはさせじと専門家の助言として言葉巧みに誘導し、自分のショップの在庫を買わせたい…それだけでしょう。

これは日本でもそうですが、だいたい、何でも危険だといい、悪い事例をすべてのように言い立てて、必要以上に慎重さをアピールしてくる店に限って、そこにあるピアノはどれほどかと思いきや、私に言わせれば別段どうということもない、平々凡々としたもので、ようはありきたりなピアノをコストをのかからない範囲でササッと整備して、外観などを磨き上げた程度で、口ほどのもんじゃありませんけどね、ハッキリ言って。
「なるほど、これは素晴らしい」と思うピアノを置いているのは、ごくごく一握りにすぎません。

今にして思えば、甘かったと思うのは、そのご夫妻はショップに行くにあたり、お目当てのピアノの写真や音源を持って行かれたそうですが、向こうは一台でも自分の在庫をさばきたいわけですから、そんな話を持ってこられて「ほうほう、それは素晴らしい!ぜひお買いなさい!あとはうちに任せて!」なんて言うはずが無いですからね。
そこはもっとシビアに考えて止めるべきだったと反省しました。

この一件で、いったん足踏み状態になり、私もこれはダメかな?とも思ったのですが、旦那さんの説得にも成功されて、ついに購入を決断されたというメールが届きました。
すでに所有者にもその旨連絡されて、あとは自宅への到着を待つばかりというところでしょう。