秀逸な海外ドラマ

前回書いた、動画配信という思わぬ環境を得たせいで、映画やドラマにどっぷりになるハメになりましたが、映画を言っていたらキリがないので、海外ドラマで印象に残ったものをいくつか。

▲『スーツ』アメリカ
かなり有名なドラマで、ニューヨークの弁護士事務所を舞台に巻き起こる人間模様。
弁護士というものがやけにカッコいいエリート族として描かれており、よほどの人気だったのか、シーズン9、エピソード数にして134話におよぶ長大作。彼らがいかに生き馬の目を抜くような攻防や駆け引きなどを繰り返しながら、肩で風を切るようでクールな過剰な描かれ方はときに笑ってしまうほど。
ライバル事務所はもちろん、仲間内での争いや足の引っ張り合いなども絶え間なく、平穏が訪れることはない功名心と頭脳戦による熾烈な競争の世界。
このドラマには、あのヘンリー王子と結婚したメーガン・マークルもスタッフのひとりとして出演しているのも見どころ。
彼女は主役級の男性と日本風にいえば社内恋愛で結婚に至るものの、8年に及ぶこのドラマの後半で本当にヘンリー王子と結婚で降板したようで、ドラマではやや唐突にアラスカの人権派弁護士になるという筋立てで、主役級の男性を道連れに姿を消してしまいます。

これは日本や韓国でもリメイクされたらしいので、よほど人気シリーズだったのでしょう。
一説によると、前代未聞の数々のスキャンダルを押し切って、元皇族の女性と、ついに結婚を強行した怪しげな男性、そのご両人ともがこのドラマの大ファンだった由ですから、このドラマの影響も小さくなかったように思えなくもありません。

このドラマ、見方によってはイギリスと日本で、二組のロイヤルカップルを生み出したのかもしれませんね。
それは余談としても、これほど長いドラマを見たのは初めての事でしたので、全話を見終わった時にはしばらく「スーツロス」になりました。

▲『マッドメン』アメリカ
これも舞台はニューヨークですが、1960年代の広告業界を描いたドラマで、かなりのところまで見ていたにもかかわらず、途中で定額視聴期間が終了し、以降は一話ごとに有料となり泣く泣くやめてしまったドラマ。
『スーツ』の50年前のニューヨークというわけで、その間の時代の変化も面白く見ることができました。
数話ならやむなく有料でも見たかもしれませんが、まだ数十話残っており、そのつど200数十円払い続けるなんてまっぴらなので、憤慨しつつ断念しました。
この経験から、見始めたものはサッサと見てしまわないといけないことを学習。

▲『オスマン帝国外伝』トルコ
長いといえばスーツどころではない超大作。
オスマン帝国の第10代皇帝スレイマンの治世、奴隷から寵妃となったヒュッレムと皇帝を中心とする、いわばトルコの壮大な大河ドラマ。
2人の出会いから死までを描く、波乱などという単調な言葉では到底語れない、壮絶な権力と愛憎の宮廷人間模様。
これを見ると、人間不信に陥るほど、親子、兄弟姉妹、主従、軍や側近などすべてが命がけの陰謀と裏切りに終始し、だれもが騙し合い、殺し合い、権力闘争に明け暮れるのが人間の本性であることを赤裸々に描いたすさまじい内容。
また、トルコという国民性もあるのか、途方もないそのエネルギーは東洋の片隅で生まれ育った日本人にはおよそ持ち合わせぬもので、見て楽しみながらも、こってりした脂の強い料理が胃にもたれるようなある種の疲れが常に伴うものでもあります。
『オスマン帝国外伝』がようやっと終わると『新・オスマン帝国外伝』というのが控えていて、こちらは皇帝スレイマンから数代後の話。
これは完結制覇まであと一息ですが、新旧あわせてエピソード数にしてなんと500話に迫る超大作で、これを書いている時点で残り20話ほどになったけれど、もしかしたらすでに半年以上これを見ているようで、まさに生活の一部になりました。
オスマントルコが黒海からヨーロッパにかけて最強を誇った時代があるとは聞いてはいましたが、なるほど途方もない権勢であったことがよくわかります。
現在のロシア/ウクライナ問題、あるいは北欧のNATO加盟に対してあれこれと画策し権謀術数をめぐらすエルドアン大統領ですが、このドラマにどっぷり浸かっていたおかげで、あの国ならそれぐらい朝飯前だろうと容易に思えました。
それにしても古今東西、国の大小を問わず、宮中とは例外なく恐ろしいところですね。

スタートはアマゾンプライムだったものの、途中からhuluでしか配信されなくなり、そのためやむなくhuluにも入会するという深みにはまってしまいました。

▲『ハンドメイズ・テイル』アメリカ
どうせhuluに入ったならと見始めたのが、huluオリジナルのドラマ。
近未来のアメリカは内戦の末分裂して、アメリカ政府はアラスカへと退き、代わりに主権を握ったのがギレアドという戦慄の監視社会政権。娯楽はすべて禁止、男性のみによる国家支配、女性は文字を読んでも罰を受けるという恐ろしい制度。
市中のいたるところには、処刑された遺体が見せしめにクリスマスツリーのオーナメントのように吊るされるというおぞましい社会で、シーズン5/エピソード56のドラマ。
出生率が低下したため「侍女」と呼ばれる妊娠出産可能な女性が次々に拉致され、強制的に国の要人の子を身ごもらされ出産させられ、産んだあと赤ちゃんは奪い取られて高官夫妻の子どもとされ、それに一切の抵抗はできない暴力支配の下に置かれるという具合で、本来こういうディストピアものは見るだけでも苦痛なのですが、やはり先述のようにドラマ自体がよく出来ているので、知らず知らずのうちに見せられてしまいました。
ここに描かれるギレアドというキリスト教原理主義の恐怖支配は誇張的だとしても、日ごろ当たり前だと思っている自由主義社会のありがたさを今さらながら痛感させられます。
とりわけ国家の法と理念に宗教原理主義が入り込んだが最後、その異常性はとりかえしのつかないものとなることが一目瞭然。
主役のエリザベス・モスは『マッドメン』でも社内メンバーのひとりで見覚えがありましたが、そのときとは打って変わって壮絶なまでの熱演を遺憾なく発揮するあたり、海外の俳優のとてつもない力量に驚きます。
シーズン5の最終回で最終回と思っていたら、まだ続くようでシーズン6を待つしかないようです。

立て続けにピアノの話から逸れてしまいました。