メイソン&ハムリン

YouTubeで、日本ではなかなかお目にかかれないピアノの紹介動画に行き当たりました。
メイソン&ハムリンのModel 50というアップライトピアノです。

メイソン&ハムリンは説明するまでもない、アメリカの名門メーカーで、スタインウェイはじめボールドウィン、チッカリングなどと覇を競ったピアノというイメージですが、日本ではアメリカ製のピアノはほとんど国内で流通しておらず、スタインウェイ以外はほとんど触ったことがなく、じっさいの感触などはよくわかりません。

産業革命以降、ピアノに大音量やパワーが求められるようになってから、家内工業的な製作方法であったピアノ製造は、堅牢な金属フレームや外板の強力な曲げや圧着製法など工業力を必要とする生産品目になったと背景もあってか、19世紀後半からアメリカがピアノ生産大国だったようです。
とくに大ホールの多いアメリカのような環境では、広大な空間に轟くパワーが必要とされ、石造りのサロンのような空間がメインだったヨーロッパとは、ピアノに対する要求も背景も違っていたのでしょう。

というわけでかつてアメリカは世界に冠たるピアノ生産国となり、そんなアメリカのピアノ黄金期を代表するブランドの一角を担っていたのがメイソン&ハムリンです。
私はメイソン&ハムリンに触れたことは一度もありませんが、数少ないレコード/CDなどで聴いた限りではNYスタインウェイと互角に渡り合えるピアノという印象がありました。しっとり感があり、やや雑みのあるボールドウィンより音や響きのクオリティは優っているのでは?と感じることも何度かありました。

メイソン&ハムリンのグランドの写真では、響板の張力を調整するための金属装置が裏側の支柱と響板の間に装着されており、その効果がどのようなものかはわからないけれど、いずれにしろ様々な工夫を凝らして素晴らしいピアノを作ろうという各社の意気込みがあふれていたことが察せられます。

さて、そのModel 50というのはアップライトで高さは127cmですが、YouTubeを通して聴く限りにおいては、温かく語りかけてくるような落ち着きがあり、やわらかい音色と伸びやかさがあり低音も重厚、くわえて良い意味でのアメリカらしいおおらかさがあり、こういうピアノを聞くとヨーロッパのピアノはもちろん素晴らしいけれど、やさしみというより緊張感みたいなものがあるようにも思ってしまいます。

このピアノが鳴り出すと、ふわんとあたりの空気が動きだすというか、音楽の楽しさに誘い込まれていくようで、これはタダモノではないかも…と感じました。実物に触れても同様に思えるかどうかはわかりませんが、聴いている限りにおいては、ふくよかな心地よさが漂ってくるようです。

なんとなく新品のような気配があり、だとするといまだにこんなピアノが作られているということ自体、驚くべきことだと思いました。
楽器とはそもそもそういうものでなければならないのではと思うというか、楽器の本質というものを失っていないというか、大半のピアノはその逆で、華やかなようでいてカサカサの乾燥肌みたいなピアノのなんと多いことか!

ちなみに、グランドの写真にあった響板のテンション調整のための装置は、なんとこのアップライトにも装着されており、さらに背後の支柱はこれまで見たことがないほど堅牢で、両サイドを入れると、6本もの太い支柱が縦に並ぶさまは圧巻です。

アップライトの支柱といえばX型のものがグロトリアンにあり、これを模して一時期高級機にX支柱を取り入れたのがヤマハでしたが、その効果の程はどうなんでしょう?
あくまで聞いた話ですが、アップライトピアノで重要なのは天地方向の強度だそうで、X型支柱の効果には賛否両論あり、少なくとも他のメーカーでは縦支柱以外は見たことありません。
しかも、高級品ほど支柱の数が多くて太く、安いものはその逆のようで、やはり縦の支柱こそが大事という説は、このメイソン&ハムリンの裏側を見ると、納得してしまうようでした。

その後、YouTubeでこのModel 50を検索するといくつか出てきましたが、さほどと思えないものもあったのも事実で、もしかすると潜在力はあるけれど調整がずさんなのでは?という気がしなくもありませんでした。
またグランドの紹介動画でおや?と思ったのは、メイソン&ハムリンはカワイのような非木材の真っ黒なアクションを使っており、アメリカという国は妙に贅沢なところがあるかと思えば、合理化のためにドライに割り切ってしまう、ふたつの面を併せ持っているようなイメージがあります。

価格を調べてみると$35000強で、ちなみにボストンの同サイズが$16400と、その倍以上もするピアノなので、それなりの高級品なのかもしれません。