SKの脅威

あけましておめでとうございます。

2024年は、元日早々に発生した能登方面の大地震、翌日にはJALと海保機の衝突事故、さらにやや地方ネタにはなりますが、福岡県北九州市では古い商店街が大規模火災に見舞われるなど、きわめて厳しいスタートとなりました。

ここ最近は、国外国内どこを見渡しても心が塞ぐようなニュースばかりが横行し、なかなか希望を見出すことの難しい時代になっているように思います。

昨日は、知人のお宅に招かれてそこのシゲルカワイ(SK-5)に触らせていただきましたが、久々に素晴らしいピアノに触れて、深い感銘を覚えました。
購入後数年を経て、まさに本領発揮というべき熟成状態にあり、これまでの日本の大半を占めるピアノとはほぼ完全に袂を分かった充実ぶりに圧倒され、これはまさに一流品だと思いました。
日本のピアノ独特のあの「和風」な感じから解き放たれ、完全に国際化できた初のピアノでは?と本気で思いました。

低音から高音までバランスも見事という他なく、すべての音に深いコクがあり、表現力も豊かで、これといった不満がどこにもみつからないものでした。
音は暗くも明るくもないバランスがとれており、良いピアノが必ず備えている重心の低さがあるし、それでいて部屋中に鳴りわたるダイナミズムと立体感があり、ふと戦前のスタインウェイに存在したA3という隠れた銘器として知られるあのピアノに触れた時の記憶が蘇りました。

何より特筆したいのは、ヴィヴィッドで密度感のある美音であり、それをしっとり感あふれるタッチが支えており、それらが相俟って心地よい親しみのようなものを伴いながら、弾き手に寄り添うように反応してくれるところでした。
SK-5といえばサイズ的にはいわゆる中型ピアノですが、その全体からくる印象は限りなくコンサートピアノに近いもので、コンサートグランドからあのいささか大仰すぎるところを削り取って、扱いやすく手に馴染むようにまとめたピアノといっても差し支えないと私は思いました。

巷でのシゲルカワイの評判が「なるほど」とストンと落ちてきたように思いますし、むしろこれまでの私の中にはどこか偏見があったのか、正しい評価を下すのが遅くなってしまったような忸怩たるものさえあって、この点は大いに反省する必要がありそうです。

シゲルカワイを語るとき、とくに強調しておくべきことはその価格で、絶対額は決してお安いものではないけれど、輸入ピアノの価格を基準に考えれば、各サイズごとにくらべると概ね3分の1から、ものによっては4分の1ほどであり、これはその内容からすれば信じ難いもので、その人気は当然だろうと思います。
裏を返せば、SKはその価格帯のピアノと互角に比べられる内容を持っていると思われ、今風にいうなら「これは相当やばい」と思った次第です。

せっかく感銘を受けたというのに、生臭い値段の話なんぞするのはどうかと思いましたが、モノの良し悪しを判断するのに価格を考慮に入れないことは現実的ではないし、フェアでもないから、やはりここは避けては通れない問題だと思います。

そういえば、ポーランド仕込みのショパン弾きとして有名な遠藤郁子さんも、ご自宅のピアノがスタインウェイからシゲルカワイに変わっている動画をいつだったか見たのを思い出しましたが、今なら「なるほどね…」と思えます。
スタインウェイはむろん素晴らしいけれど、たとえばModel-AとSK-3はほぼ同サイズですが、価格は5倍です。
スタインウェイAにはSK-3の5倍の価値があるのか?といえば、私には到底そうは思えません。

世界的にも、とりわけ上級グレードのピアノにとってSKシリーズは相当な脅威であることは間違いないことをしっかり思い知らされた今年のお正月でした。

今年もよろしくお願い致します。