Eテレの「クラシック音楽館」から、尾高忠明指揮・NHK交響楽団/アンスネスのピアノによるベートーヴェンの皇帝、後半はブラームスの交響曲第3番ほかの録画を見てみました。
中堅の印象が強かったアンスネス氏もいまや円熟の世代というべきで、ちょっとした風格さえ漂っていましたから、それだけ月日が流れたということでしょう。
演奏は昔からの印象と大きく変わることはなく、クセのない中庸を重んじるものですが、それなりにしっかり聴かせてくれるところはさすがでした。
良識的に、堅実に弾き進められていくところこそこの人の魅力だろうと感じていますが、それ以上のことを期待することはできないところも昔と変わらない印象です。
必要なものを手堅く着実に表していく演奏、北欧風のルックス、エキサイティングでもマニアックでもないけれど、息の長いコンサートピアニストとしては、これはこれでひとつの道筋なんだろうと思います。
おそらく、実際の演奏会に行って生演奏に接したら、それなりの充実感を得られるのだろうと思われますが、映像やCDを何度も繰り返し観たり聴いたりしようという対象とはなりません。
この文章を書くにあたり、念のためもう一度見てみようと思ったのですが、どうやら見終わって無意識に消去してしまったらしく、残念ながら確認はできませんでしたが、まあそういうピアニストだろうとも思います。
尤も、現代の聴衆の大多数は、聞き耳を立てて一喜一憂し、気持ちを入れて繰り返し楽しむというような人はほとんどないような気もするので、だとすると、それはそれで必要条件をしっかり満たしているとも言えそうです。
アンスネスといえば、海外でもそうだったように、ピアノの大屋根をオリジナル以上の角度に開けるのがよほどお好きなようで、今回の来日公演でも、本来の突き上げ棒ではない茶色の長い棒が使われて、大屋根ははしたないばかりに開けられていました。
自分用のピアノを世界中持ち歩いているのかどうかは知りませんが、少なくとも、あの専用の突き上げ棒だけを送るか荷物として持ち歩くかしているのでしょうか?
製品として存在するものなら、それを好むピアニストもしくは音楽事務所がそれを公演先に持ち込むのか…まあ、甚だどうでもいいようなことですが、そんなくだらないことがやたら気になります。
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早朝のクラシック倶楽部では、フランチェスコ・トリスターノのバッハを聴きました。
イギリス組曲を中心にしたプログラムで、55分の番組内では第2番と第6番が中心となっていましたが、歯切れよく快活で、とくにダンスの特徴が強調されているよう感じました。
いまさらながらイギリス組曲の聴き応えと、とりわけ第6番のすばらしさを再認識しました。
ピアノはヤマハCFXで、滑舌もよく華やかですが、その奥に東洋的メンタルを感じてしまう印象。
よく、YouTubeなどでヤマハとカワイの違いや特徴が語られる際、ほとんどの場合「ヤマハは明るい音色」ということが強調されますが、個人的にはヤマハの音は「派手」だとは思うけれど、「明るい」というのとは似て非なるものだというのが正直なところです。
バッハの場合、特定の音域のみの演奏になるため、そのピアノの素の音や歌心のようなものがストレートに聴こえますが、よく鳴ってパンチもあるけれど、楽器自体の歌心によって演奏が収斂されていくようには聞こえないのは不思議です。
ヤマハらしさを感じるのは基音のナチュラルな美しさというより、倍音を強く含んだミックス感のような気がしますが、専門的なことは疎いのであくまで聴いた印象での話です。
良くも悪くもそれがヤマハの魅力でもあるはずだと思いますが、ある種の静謐さとか澄んだ響きの世界ではなく、ゴージャス系の着飾った音に思えます。
そういう意味では、バッハではいささか端正さがない感じがなくもありませんでしたし、思えばグールド晩年のゴルトベルクにもそれを感じて、今でも聴いている間ずっと気にかかります。
ただ、ヤマハならではのインパクト感は満々なので、これを好む方も少なくないそうで、なるほどなぁと思います。