ジャンボ機再び

昨日の新聞を見ていて、おやと思う記事が載っていました。
アメリカの航空会社の発表によれば、日本便は、今後大量のお客が見込めると云う判断から、デルタ、ユナイテッドなどの大手はこの先、懐かしいジャンボジェット(ボーイング747)を投入していくのだそうです。

一度はジャンボ機から、やや小さく効率重視のボーイング777にその座を譲っていたにもかかわらず、再びこの存在感あふれる大型機が国際線の表舞台に戻ってくるというのは嬉しいような気になりました。

ボーイング747は、空の大量輸送時代を予見したパンアメリカン航空の提案によって1960年代にボーイング社が開発、70年代初頭に就航した、それまでの常識を覆す巨大旅客機でした。
当時のパンアメリカン航空は世界に冠たる圧倒的な航空会社だったので、これに続けとばかりに世界の主要な航空会社は、そんな大型機を飛ばす見込みもないままこの想定外の新鋭機をこぞって発注しました。

その後、その予見通りに空の大衆化は進み、やがては厳しい航空運賃競争の時代に突入しますが、なんとも皮肉なことに老舗気質が抜けきれないパンアメリカン航空は企業の体質改善が追いつかず、しだいに競争力を失い、ついには倒産してしまいます。

パンアメリカンなき後、そのジャンボジェットの最大のカスタマーは日本航空で、長いこと世界最大の保有機数を誇りました。通算の導入機数は軽く100機を超えており、ひとつの航空会社でのこの記録はたしか世界記録です。しかし日本航空もその飽満経営が祟って破綻となり、ジャンボ機は燃費問題を理由に全機が退役、全日空もこれに倣ってか保有する数十機のジャンボ機の大半を売却し、残るは国内線用の数機、それ以外では日本貨物航空が運航する貨物機、そして2機の政府専用機だけになりました。
かつてジャンボ王国といわれた日本でしたが、わずか数年で、まるで前時代の稀少機種のような存在となってしまいました。

マロニエ君にいわせると、旅客機にも一定の趣があったのはこのジャンボ機までで、今どきの飛行機にはロマンも色気もない、ただの効率化と低燃費の塊で、見るからに安普請、いかにもコンピュータが作った飛行機という無機質さしか感じられません。
乗客としての乗り心地も、ジャンボ機はその安定感、やわらかさなどは格別で、とくにダッシュ400という後期型はひとつの究極で、いわば佳き時代のスタインウェイDのようなもの。これに勝る飛行機にはまだ乗ったことがありません。

燃費問題というのはいささか誤りで、これは日本航空の経営建て直しにあたっての世間ウケの良い方便でもあるようで、実際は旅客ひとり当たりの燃費で云えば決して大食いではないのですが、大型機は不景気になると融通性に欠けるという問題を抱えていると見るべきでしょう。
より小さな飛行機を数多く飛ばす方が利用者も便利なら、会社側も利用率に応じた無駄のない機材繰りの調整もしやすいということで、最近はこれが時代の潮流のようです。

この流れを作ったのがそもそもアメリカで勃興してきたLCCであったのに、そのアメリカの航空会社が再びジャンボ機を日本線に投入してくるというのはまったく思いがけないニュースでした。

なんでもコストや効率という、面白味のない、しみったれた世の中で、たまにはこういう好景気の象徴みたいな豪快な飛行機が再び脚光を浴び、太平洋を飛ぶようになるというのは、なんとなく嬉しいことです。