最近は中古ピアノもネット動画で宣伝する店が増えて、店主もしくは店員が自ら出演し、折々の在庫ピアノを紹介するというスタイルが流行ってきているようです。
これは、今ではすっかり有名な関西の業者がはじめたやり方で、それが他社へもしだいに広がっているというところでしょうか。
この手の宣伝動画は概ねパターンが決まっており、まず簡単な挨拶に続いて紹介するピアノの概要の説明、状態、続いて音出しや演奏がおこなわれることで、それがどんなピアノであるかをざっと知ることができるという点では、差し当たってのきっかけになることは確かでしょう。もちろん購入を検討するときは店に出向いて現物確認をする必要があるのは当然としても、すくなくともアピールの第一歩という目的には有効な方法なのかもしれません。
そのネット動画をみていると、ちょっと興味深い事がありました。
あるピアノ店で、1980年のヤマハのC7(1980年)とディアパソンの210E(1979年)の2台を比較しながら紹介する動画がありました。
よく見ているとこの2台には、それぞれのピアノの譜面台には機種やサイズ/価格などを記したカードが添えられていますが、ヤマハのC7は奥行きがこの当時のものは223cm、ディアパソンの210Eは210cm(実際は211cm)ですが、重量表記はC7は415kg、210Eは250kgとなっています。
この250kgというのは明らかな誤表示と思われ、これは一般的にアップライトの重量です。210Eは通常370kgとされていますので、単なる間違いだろうと思います。
よって210Eは370kgと考えるとしても、C7と210Eの長さの差が12cmであるのに対して、重量差は45kgということになります。ちなみに現行のヤマハのC7XとC6Xでは全長の差が15cmであるのに対して、重量はわずか10kgの違いにすぎません。
ではのこり35kgの差は何なのか。
もちろんこの二台は設計自体が異なりますから単純比較をすることが適当かどうかは異論の余地があるところだとは思いますが、強いて云えばおそらくピアノを構成する材質の違いではないかと思われます。接着剤を多用する合板や人工素材は、無垢の木材よりもはるかに重量が嵩むとされています。つまり合板は接着樹脂と木材をミックスしたものと考えるべきで、これは重い上に、音の伝達性が劣るのはいうまでもありません。
もちろんディアパソンとて合板を使っていないはずはありません。しかし、ひとくちに合板といってもいろいろでしょうし、使用比率の違いなどもあろうかと思われます。ヤマハのピアノは昔から長らく付き合ってきましたが、天板の開閉をはじめ手触り的にも重量が重いピアノというイメージがあって、それはいまだに拭えません。
最新の現行モデルを調べてみても、ヤマハのC6X(212cm)は405kgであるのに対し、カワイのGX-6(214cm)は382kgとなっており、ヤマハのほうが若干小さいにもかかわらず重量は23kgも重いということがわかります。
コンサートグランドでは、むかしのヤマハとスタインウェイでは、なんと100kgもの重量差がありましたが(全長はほとんど同じにもかかわらずスタインウェイが軽い)、これも構造的なものと材質的なものだと思われます。
ただし初代からCFIIIまでがずっと580kgだったものが、単なる発展型に過ぎないCFIII-Sになると突如500kgと一気に80kgも軽くなり、そんなことがあるものだろうか…と思ってしまいます。
ちなみにストラディヴァリウスを弾いた経験のある人の著述によると、まず驚くのは手に持ったときの「軽さ」だったと云いますから、楽器は基本的には軽い方が好ましいという原理があるのかもしれません。