イヌ派とネコ派

動物好きを自認するマロニエ君は、子供のころから家には必ずい犬がいて、犬のいない生活を送った時期のほうが遙かに少なく、この最近がそれにあたります。
数年前、最後に飼った犬が老衰で亡くなり、その悲嘆から家族共々次を飼う意欲を喪失し、この数年間というもの、これほど長く犬のいない生活を送ったのは初めての経験です。

猫も決して嫌いではないし大いに魅力的だとは思いますが、動物を飼うというのは生半可な気持であってはなりませんから、そうなるとどうしても自分との相性に逆らうことはできません。
昔から動物好きの中にもイヌ派とネコ派があるといわれている通り、これはなかなか途中から宗旨替えすることはできないようです。
竹久夢二や川端康成は有名なネコ派ですが、吉田茂などは犬嫌いの奴とは口もききたくないというほどのイヌ派だったとか。
マロニエ君はどうしても犬のほうが圧倒的に好きで、自分には合っていると思います。

そもそも犬と猫は、なにもかもが逆のような気がします。
呼んだら喜んでやって来る犬、呼んでも無視するのが当たり前の猫。
何かにつけ喜怒哀楽をストレートにあらわす犬、いつもクールで冷めた態度の猫。
飼い主に無限の忠誠と愛情を示す犬、イヌ派には恩知らずとしか映らないマイペースな猫。
人と家に住みついて決して離れない犬、いつどこに消えてしまうともわからない猫。

…等々、書いていたらキリがありません。

我が家の庭には隣家の飼い猫がときどき遊びにやって来るのですが、これまで何十遍も呼んでみたけれども、ただの一度も応えてくれたことはなく、窓越しに見ていると近くで適当に遊んでいますが、少しでも裏口から出ていこうとすると、サッと忍者のように音もなく走り去ってしまいます。

つい先日、そんな猫の野生というか、恐さを目撃してしまいした。
いつものように我が家の庭に遊びに来ている猫を見つけ、窓越しに観察していたときのこと、普段とは少し様子が違ってその日はいやに何かを見つめています。そして、ふいにあっちを向いたり、逆方向に身体ごと少し動いたりと、とにかく何かに集中しているようでした。

何事かと注視していると、その視線の先にはヤモリだかトカゲだかがいて、双方睨み合いが続き、相手が小刻みに動くたびに猫のほうも敏捷にそれを追っているようでした。
猫は全身をこわばらせてあっちこっちと動いてはピタッと静止を繰り返していましたが、しばらくその攻防が続いたあと、その緊張がふと緩みました。
こわばっていた猫の背中には普段のしなやかな曲線が戻っていますが、なんとはなしにやや異様な感じがしました。そしてこちらを向くと、猫の口元に何かがプラプラとぶら下がっています。

なんと、ついにそのヤモリorトカゲが捉えられ、猫に勝負あったようでした。
しばらくこっちを見たり、横を向いたりしましたが、そのたびに口先の物が小さく揺れています。
そのうち、意を決したように、いつものように隣家のほうへ軽やかに走り去ってしまいましたが、あんなに小さくてかわいくとも、猫の素性はれっきとした野生動物であることをはっきりと見せつけられたようでした。
やはり、遠いご親戚には虎やライオンがいらっしゃるだけのことはありますね。

なんだかゾッとする光景で、これだけでもやっぱり自分はイヌ派だなぁ…としみじみ思わせられた一瞬でした。