事務用品で代用

一般的にみなさんどうなのかは知りませんが、少なくともマロニエ君が自分でピアノを弾くにあたって、音やタッチのことは別とすれば、もっとも嫌なのは滑りやすい鍵盤です。

鍵盤が滑りやすいということは、むやみにミスタッチの誘因となるばかりでなく、そればかりに気を遣って、安心して弾く楽しみが得られません。滑りやすい鍵盤のせいで、しなくてもいいミスをするのは本当にいやなものです。
そもそも自分が下手クソなのは致し方ないことで、いまさらこの点を嘆いてもはじまりませんが、最低限自分のもっている甚だ乏しい演奏能力さえ指が滑ることで大きくスポイルされてしまうのは、ひとえに滑りやすい鍵盤のせいで、これは甚だおもしろくありません。

とりわけ質の良くない象牙鍵盤が弾き込まれると、表面は異様なほどサラサラスベスベになり、指先を適度に止めるという性質が完全に失われてしまいます。
現在、我が家で愛奏しているディアパソンは、幸いにもこの点ではそこそこの象牙のようで、それほど悪くはないのですが、マロニエ君の手や指が脂性でも汗っかきでもないためか、やはりやや滑り気味です。

滑るといえば、黒鍵の黒檀も、見た感じや指先の触れる感触こそ良いけれども、こと滑りやすさという点ではむしろプラスチック以下だというのが正直な印象です。
これがさらにスタインウェイなどの外国製ピアノになると、欧米人の太い指を想定して、黒鍵の間に指が入るように日本製ピアノより黒鍵がひとまわり細く作られているので、滑りやすい感触と細さの相乗作用によって、これがまたかなり弾きにくいのは事実です。

見てくれや質感を別にすれば、少なくともマロニエ君にとって最も安心できるのは白鍵も黒鍵も、あの安っぽいただの白黒の無味乾燥なプラスチック鍵盤ということになります。
よほど高級品が体に合わないというということなのかもしれませんが…。

これまでにも、市販の肌水などで手を揉むなどして試してみましたが、それなりでしかなく、決定的な解決策はありません。
即効性と一瞬の効力という点でいうなら、圧倒的なのは、名前はわかりませんが、オフィスなどで紙を数えるときなどに指が滑らないように指先にちょっとつける事務用品が文具店に売っていますが、あれは効果てきめんです。

ただし、この事務用としてつくられたケミカル品は、指先に硬いジェル状のそれを塗りつけて弾くとしばらくはまったく爽快なのですが、悲しいかなものの数分でその効果が失われてしまうことです。この製品で、もっと持続力があるものがあれば、例え値段は十倍してもマロニエ君は躊躇なく購入するでしょう。

それでも、ないよりはマシというわけで、譜面台の端にはいつもこの丸い容器に入ったピンクの事務用品を置いていますが、これをつけるたびに他の人はどうしておられるのだろうとしみじみ思ってしまいます。

よくレストランのお盆などに、載せた食器が滑らないように、ややネチャッとした素材で出来たものがありますが、まあさすがに鍵盤をそんな素材で作るわけにもいかないでしょうけれど、やはり滑りすぎが嫌な人のためのなんらかの対策グッズが、ピアノメーカーから開発されても良さそうな気がします。滑らない鍵盤は好ましいタッチに匹敵するほどの、演奏者にとって重要なファクターだと思うのですが、どうしてその手がまったく出てこないのか、こればっかりは不思議でしかたありません。

「持続力のある指先もしくは鍵盤滑り止め剤」みたいなものを開発したら、かなり売れると思うのですが…。