現代の神業

ほかの方はどうだかわかりませんが、マロニエ君にとっては恐ろしいと感じる光景を目にしてしまいました。

11月28日に『ふしぎ』というタイトルで、「近ごろの若い人は、能力の使い方が昔とは根本的に違ってきているのか…」という出だしで駄文を書いていますが、それを証拠づけるようなことを目撃してしまったのです。

日曜の夜、車で出かけたときのこと、信号停車していると、助手席の人物が「見て見て、すごいよ、ほら!」というので左に並ぶ軽自動車のほうに目をやると、運転席に座る若い女性が、赤信号中にスマホでメール打ちをしています。
むろんただそれだけなら驚きもしませんが、すごいのはそのメール打ちの途方もないテクニックでした。

右手にスマホをかざして、人差し指から小指までの4本はスマホ本体を支え、画面上で動いているの親指だけなのですが、その動きの猛烈な早さは見ているこちらの目がついていけないぐらいの超高速でした。まるでキツツキか機関銃のように、親指一本がめまぐるしい速度で、しかも正確でとてもなめらかに動いていることがわかり舌を巻きました。

この速度の中でちゃんと目的をもって文字を選らび、句読点を打ったり、漢字変換したり、場合によっては絵文字や記号などを挿入しているのかもしれませんが、とてもそんな作業とは信じられないような神憑り的な動きでした。やみくもに打っているわけではない証拠に、その親指は画面下部を上下左右、斜めに駆け回り、ときどきは連打しながら、親指だけがまるで別の生き物か、はたまたコンピュータ制御の動きのように見えました。

さらに凄味があったのは、それだけのことをやっているにもかかわらず、その女性にはまったく緊張とか集中しているといった様子もなく、至ってリラックスした様子であったし、ちょっと言葉は悪いですが、顔の表情などはむしろ阿呆的にゆるんだ表情で、これがこの女性にとってまったくノーマルの、平常の動きなのだと云うことが察せられました。

子供のころからケイタイのキーに触れて育ち、スマホのような新鋭機種が出てくれば、それをたちまち使いこなすのは苦もないことなのでしょうし、メール打ちなどそれこそ一日も休むことなく、それも日がな一日やっているでしょうから、それが自然の猛稽古にもなり、結果的にこんなとてつもないテクニックを身についたということだろうと思います。

あの尋常ではない指の正確な動きを見ていると、ピアノの練習でもすればさぞ上手くなっただろに…と思いますが、このように若い人は自分の豊かで瑞々しい能力を、あまりにも意味のないことに投じているように思えて、なんだかやるせない気分になりました。
もちろん、本人にとっては意味は大ありでしょうし、「ケイタイやスマホは命の次に大事なもの」などと高らかに言って憚らない世代ですから、なるほど命の次に大事なもののためには、エネルギーも惜しみなく投じるのは当然のことなのかもしれませんが。

最後にダメ押しで驚いたのは、信号が青になり二台ともスタートしましたが、なんと車が動いても彼女はメール打ちを止める様子もなく、しかもまわりとまったく遜色ない快調なスピードに乗せて走っています。その後、道は立体交差の長い地下部分に入りましたが、そこでもまったく様子は変わることなく、左にウインカーを出したかと思うとサッと一車線分左に寄り、そこからスイスイと側道に入って上の道に出ていきました。もちろんスマホ操作は続行しながらです。

この時の速度は約70km/hほどですが、運転、メール打ち、ルートや交通の状況判断、文章を考えるなどを同時に(しかもハイスピードで)やっていたわけで、これはものすごい高等技術だと驚嘆させられました。
それにひきかえ、何度か書いた、トロトロ走りをする若い男性なども同世代だろうと思うと、この差はいったい何なのか!? もうこの世に男の役目はないという兆候のあらわれかもしれない気がしました。