正月はこれといった予定もなく過ごしましたが、ピアノ好きの知人達が遊びに来てくれました。
ディアパソンを主に弾いてもらい、やはりタッチの重さは気になったようですが、同時にヤマハやカワイとは一線を画する厚みのある力強い鳴りには意外な印象を持ってもらえたようでした。
いつものことですが、他の人に弾いてもらうことで、自分のピアノを普段とは違った位置から聴くことができるのは大いに楽しみでもあり、同時に評価や反省の材料にもなります。
ピアノに限ったことではないかもしれませんが、楽器の本当の音や響きというものは、少し離れた位置から聴くほうが本来の姿がわかるもので、演奏者が間近で聞く音は必ずしも本物ではないということをあらためて感じます。
来られた方のお一人は長年カワイのグランドを愛用されていましたが、なんと年末に半ば勢いで買い換えたという突然の告白にすっかり驚かされました。
年末にひととおりあちこちで試弾してみたそうですが、最終的にカワイのSKシリーズに絞られていき、数台ずつあったという2、3、5の中からついにSK-5に決定したそうです。
その理由はSK-5がやはり低音にも余裕があるなど、要するに音が断然よかったからという明快なものだったようです。ところがいざマンションの自室に入れてみると、ショールームでの印象とはまるで違ってしまって、今はその点に大いに悩んでいるとのことでしたが、これはままあることで、楽器は出た音を鳴らす空間をも要求するということのようです。
なにしろまだ納品から数日という状態のようで、初回の調律が済んだらお披露目に招待してくれるということになり今から楽しみです。
ところで意外な話を聞きましたが、ある大手メーカー(カワイではない)の方が言われたそうですが、ピアノは新型が出てすぐのものが最も出来がよいという興味深い話でした。
その理由は、ピアノはシリーズの初期型こそが開発者達の理想や意気込みが最も強く注ぎ込まれているらしく、それによって新しい製品の高評価を勝ち得るのだそうです。これがうまく運ばないと以降の販売にも影響してくるから、とくに出始めのモデルには力が入っているというものでした。
これはまったく気が付かないことでしたが、云われてみればたしかに思い当たることがあります。
某コンサートグランドなどはえらく力の入った新型を出して、「ほう!」と思わせるものをもっていましたが、最近ではあきらかに質が落ちてきているんじゃないかという残念な印象を立て続けに抱いていたので、この話が忽ち信憑性を帯びることになりました。
新品ピアノは、普及型も含めて、たしかに発売から時間が経つほどそのピアノの密度みたいなものが薄れてしまい、いわばメーカーの気合いが感じられなくなってくる印象があります。
車などは初期型はセッティングの未消化や想定外のトラブルがあったりと、発売開始直後はいわばプロトタイプに近い側面があってユーザーからは敬遠され、以降数年をかけて対策・改良されたモデル末期がもっとも熟成が進むのでその辺りを狙って買う、もしくは最低でも2年は待つというのが見識あるカーマニアの車選びの通例です。
しかし、ピアノの場合は新しい機構というものはほとんどなく、構造体としては100年以上前に完成されたものを模倣・踏襲・改良しながら作っているに過ぎないので、違いはもっぱら細部のちょっとした設計や工夫程度で、肝心なことは主に材料の質と作り込み精度、さらには出荷調整こそが命だといえるのかもしれず、これはなるほどと思いました。
具体的なモデル名は控えますが、日本のピアノでも同一モデルで古いものと新しいものを比べると、新しいほうは新築の家や新車と同じで新品ならではの気持ち良さのほうに目が行ってしまうものですが、本当に楽器としてよくなっていると心底感じたことがあるかと云われると、あまりないのが実感です。
となると、ピアノは新シリーズがでたら発売直後から一定期間(それが具体的にどれぐらいかはわかりませんが)が旬だということになるようです。