昨年のNHKの朝ドラは『あまちゃん』がたいへんな人気を博し、大ブレークといってもいい盛り上がりをみせたので、次の番組はどうなるのかと思っていましたが、大阪NHK制作の『ごちそうさん』も個人的には大いに楽しんでいます。
その『ごちそうさん』ですが当初から「おや」と思うことがありました。
番組内で流れる音楽のことです。
というか、マロニエ君はこれを何というのか名前を知りません。もちろん主題歌のことではなく、ドラマの進行と合わせて挿入される効果音的な役割を担う音楽のことです。ネットで調べたらわかるのでしょうが、面倒臭いので調べていません。
このドラマの雰囲気とは打って変わって、多くが弦楽器のみ(管のときもあり)で奏でられるもので、ときにクァルテットのようでもあり、ときにはもっと大勢の弦楽合奏のようにも聞こえます。
それも15分の番組中の後半に集中している印象で、内容がだんだんに佳境に入ったり、なにか秘密めいたことが出てきたり、主人公が窮地に立ったり、意外な展開が起こったり、見てはいけないものをみてしまったりするようなときに、弦楽合奏が意味深かつ効果的に入ってきて視る者の気持をぐいぐいと押し上げていきます。
マロニエ君の知る限り、こんなきれいな音楽に支えられた朝ドラは初めてのことで、この点でも接する楽しみがもうひとつ増えたように感じています。だいいち、多くの効果音的な音楽が弦楽合奏というのはやっぱり品があるし、それを他愛もないドラマの喜劇性と組み合わせることによって独特な効果を生みだしているように思います。
とりわけ、いつものように家族5人がそれぞれの思いを抱えながら緊迫した食事時間を過ごしているようなとき、弦のアンサンブルは静かにはじまり、しだいに険悪な事態になったり、あるいは重大な事実が発覚すると、一気に音楽もそれに呼応して高まりをみせ、各登場人物のそれぞれの困惑、驚き、してやったり、開き直りなどの表情と音楽が一体化していやが上にも盛り上がりをみせます。
まるでモーツァルトのオペラブッファによくある幕切れの多重唱の場面のようでもあり、それが必要以上に可笑しさをそそったりしますが、製作者はよほどオペラが好きなのだろうとも思わずにはいられません。
タンゴ調だったり、はたまた、どことなくR.シュトラウスの『ばらの騎士』を思い起こさせるときがあり、そもそも『ばらの騎士』はシュトラウスがモーツァルトのようなオペラが書きたくて書いたという逸話もあるぐらいですから、なんだかそのあたりを狙っているのかもしれません。
それぞれの登場人物も、性格の振り分けがオペラ的に明快で、主人公夫婦がいつも困惑し必死で思い詰めたような表情をしているのに対して、いじわるや不道徳者などが周りを取り囲んで、次々に可笑しなトラブルを巻き起こすのはオペラブッファで採り上げられる、市井の題材そのものみたいな気がしてきます。
こういうことを思わせるのも、音楽の力に負うところが決して小さくないことの証明ですね。