娯楽の倒錯

それが今どきの世の中のニーズなのか、はたまた別の理由からか、そこのところはわかりませんが、このところのテレビで取り上げられる「病気」に関するネタが多いのには辟易させられてしまいます。

この傾向はいつごろからだったかと思いますが、間違っていなければ『あなたの知らない…』とかなんとかいう番組あたりがきっかけだったのではと思います。

はじめのころ、ためになるような気がして何度か見た記憶がありますが、まったくのデタラメとは云いませんがが、ほとんど偶発的な一例にすぎないような事象が脅迫的に取り上げられ、すべての人の身の上におこる可能性があるという調子で話は進み、スタジオに陣取った芸能人達も異様に恐れおののいて見せるものだから、視聴者としては際限のない不安に煽られっぱなしというものです。

しかし次から次へと内容は拡大し、これをいちいち鵜呑みにしていたら、とてもじゃありませんが普通の生活なんて送れません。
もちろん、自己管理の基本として心得ておくべき医学の常識程度なら必要ですが、あまりにそれが多岐に渡って注意々々の連続ではやってられないし、却って最低限の心得まで投げ出してしまいそうになります。

そもそも「可能性」ということになれば、人はそれぞれ生活環境も異なれば体質もそれぞれで、あまり執拗にそこをつつかれても、果たして自分の身体に有効な情報かどうかも疑わしい。
おまけに医学的研究は日々進化していて、それに基づく学説にも諸説混在して、以前の常識や定説が一夜にして覆されたりと、この点でも極めて不安定だということも忘れるわけにはいきません。

ともかくもこのようにして、スタジオに各専門の医師を呼んでは再現VTRを流して人々を脅してまわるのは、番組作りにも抑制と見識が必要で、健康管理の美名のもとに視聴者の不安を弄んで視聴率を取るのだとしたら甚だしい悪趣味だと思います。

これよりもさらに悪趣味きわまりないのは、仰天ニュースやアンビリバボーのたぐいです。
これらはほぼ類似の番組ですが、毎回取扱うテーマが異なり、世界の珍事件や魔性のオンナ、天才詐欺師の半生など、以前はそこそこおもしろい内容があるので暇つぶしに見るために録画設定していました。

ところが、最近やたらに多いのが「病気ネタ」で、中でも目を背けるのは「難病奇病に取り憑かれた子供」などを美談という逃げ道を作りながら、その病気に苦しむ人々の凄惨な様子を容赦なく写しまくりで、大半が密着取材&再現ドラマで、どうかうすると番組全体がそれひとつで終わってしまいます。

見るに耐えないような恐ろしい病気に蝕まれて苦悶している人や子供の様子を、その患部を含めてテレビカメラがこれほど追い回すこと、しかもそれが娯楽番組によって放送されるということに、マロニエ君は強い違和感を覚えるのです。

取材される側は、いろいろな事情もあって納得してそれに応じているのかもしれませんが、少なくとも放送のスタンスとして、この現状をなんとか改善に向けるための問いかけというより、ほとんど視聴率獲得のためのネタとしての扱いでしかなくのは驚くべき事です。

そのいっぽうで、現代は、ちょっとした発言ひとつが問題になり、追求を受け、責任を問われるという意味では、番組出演者もうかうか自分の考えも述べられない現状があるのも事実です。視聴者からクレームがつき、スポンサーからクレームがつけば事の是非を問うことなく、問題発言は削除され、その人は番組を降ろされるという構図が横行しています。

そうかと思えば、こんな悲惨な病気の話ばかりを娯楽番組が全国放送でお茶の間に垂れ流すのは、倫理的にも何の問題もないのか…今の世のルールというものがどうなっているのか、マロニエ君にはまったく見当もつきません。
早い話が、娯楽番組は潔く娯楽に徹するべきで、難病奇病がレギュラーネタとは、娯楽の在り方があまりに倒錯的すぎはしないだろうかと憂慮の念を禁じ得ません。