先月の下旬だったと思いますが、民放のBSで中村紘子さんへのインタビュー番組が1時間ほど放送されました。
港区の古くからある高級マンションに彼女の自宅があり、マロニエ君が東京に居た頃からずっと紘子さんはここにお住まいで、わりにお近くでしたからしばしば近くを車で通っていたものです。
実は紘子さんのご主人が大のクルマ好きで、その関係から一度ご自宅へご一緒しましょうか?というお話がありましたが、ある意味興味津々でもあるけれど、なんとなく抵抗もあってグズグズ決断しきれないでいるうちにタイミングを逸して、その話も立ち消えになってしまいました。
ちょっと残念なような、まあそれでよかったような、当時はそんな気分でした。
番組では女性リポーターがこの高級マンションのご自宅を訪問するという趣向で、エレベーターのすぐ脇に玄関ドアがあり、それを開くとあの紘子さんが登場、笑顔で出迎えます。中へと招き入れられ、カメラもそれに続いてお宅の中へ潜入していきます。
玄関を入るなり、とにかく目につくのは、あちらにもこちらにも、たくさんの花々が活けられていることで、まるでなにかの会員制クラブのような雰囲気でした。この色とりどりの花々にとり囲まれた空間というのも、多くの人が中村紘子さんに抱くある種象徴的なイメージのひとつなのかもしれません。
いつも雑誌やテレビで見る、後ろにスタインウェイの置かれたお馴染みのリビングの他に、今回は特別サービスなのか防音設備を整えた練習室にもカメラが入りました。そこは紘子さんのいわば道場というべきスペースで、さすがにストイックな感じがあり、いつもここでさらっていらっしゃるのだそうです。
さて、インタビューの具体的な内容に触れても仕方がないので、ここでは映像からマロニエ君なりに目についた枝葉末節の、甚だくだらない印象を述べますと、意外だったのはピアノの前に置かれた椅子でした。
中村紘子さんは昔からコンサートでは決してコンサートベンチではなく、決まって背もたれのあるトムソン椅子が使われます。しかもそれを子供の発表会のように目一杯最高位置まで引き上げて、座るというよりは、ほとんどその前縁にお尻をちょこっと引っかけるようにして「全身で」ピアノに向かわれますから、よほどこの椅子がお気に召しているのかと思っていました。
ところがご自宅リビングのピアノの前には今流行のガスダンパー式のベンチが置かれ、さらにその脇には、通常のポールジャンセンのコンサートベンチもあって、普段はこれらをお使いだというのが察せられました。
どうやら、あのトムソン椅子は紘子さんのいわば本番用「勝負イス」のようです。
また、いつもお馴染みのリビングのスタインウェイはこれまでにもほとんど全身が映ることはなく、鍵盤付近のロゴが見えるアングルが固定ポジションのようで、この場所から紘子さんがいろいろなコメントを発するのがお定まりのかたちでした。そのピアノの足の太さから察するに、てっきりD型だと思っていましたが、最後の最後にほんの一瞬映ったピアノの全景によるとC型だったのはなんだかとても意外でした。ちなみにDとCは同じ足で、B以下が細くなります。
普通はDではない場合は定番のB型になるのがほとんどですから、Cというのはまたオツなチョイスです。
練習室もスタインウェイでしたが、こちらは艶消しで、おそらくはリビングにあるものよりも古いピアノだろうと思われました。こちらもサイズ的にはBかCのようでしたが、わずかなカメラアングルからは決め手が得られず、どちらかまではわかりませんでした。
今回最も印象的だったのは、さしもの中村女史も発言がずいぶん丸くなっていることで、この方からやや枯れた感じを受けたことは初めてでした。以前だったらとてもこういう言い方はされなかっただろうと思えるところがいくつもあり、ずいぶんと落ち着いた、どこか平穏な感じがしたのは、ああ中村紘子さんも歳を取られたのだなあと思います。
むろん、それだけ自分もまた確実に歳を取っているということでもありますね。