日本の音楽評論の最高齢にして御大、吉田秀和氏の著書を読んでいたら、ロシア・ナショナルフィルをバックにプレトミョフのピアノ独奏による、ベートーヴェンピアノ協奏曲全集のことが書いてありました。
実はこのうち2番と4番の入ったCDはマロニエ君も以前購入したものの、一聴して、そのあまりのイレギュラーな演奏には、たちまち拒絶反応を覚えたものでした。ピアノはもとより、モダン楽器のオーケストラまでもが妙に古楽的な演奏をして、やたらとするどいスタッカートなどを尖鋭的に入れてきたり、へんなところで強烈なアクセントがついたりというのが神経に触り、どうにもついていけないわけです。
とくにピアノの異様さといったらありませんでした。
もしやマロニエ君の耳が固定観念に凝り固まっているのかと思い、我慢して2、3度は聴いてみたものの、ついにこの演奏と和解することはできず、いらいこのCDは棚の奥深くで眠りにつきました。
マロニエ君的には、2番はまだいくらか許せるとしても4番は到底受け入れられないというか、はっきり言うなら許しがたい演奏だったから、果たして御大はなんとコメントしているのか興味津々だったわけです。
果たして吉田氏は結論から言うといろいろな言い回しをして「面白かった」「楽しんだ」と言っておられます。
そのかわりかどうかはわかりませんが、宇野功芳氏の評論を引き合いに出されます。
宇野功芳氏は「第1、第2協奏曲はおもしろい、しかし第4はいくらなんでも行き過ぎだ」とされているらしい。
これを読んでほっとしたというか、当然だと思いました。
ちなみに吉田氏は最後にこう書いておられました。
『私はプレトニョフで聴いたあと、内田光子さんとブレンデルのCDでも、第4協奏曲を聴き直してみた。きれいだった!』
これがきっかけになって、久々にこのCDを引っ張り出して、もう一度虚心坦懐に聴いてみました。
しかし、やはり印象は同じ。2番はまだいくらか許せるが、4番受け入れられませんでした。
こういう4番を聴いて面白く楽しめるようになるには、よほどの寛容の心と懐の深さが必要なようです。
ちなみにこのCDでは、非常に珍しいことにピアノはブリュートナーのコンサートグランドが使用されていて、このピアノで聴くベートーヴェンの協奏曲という観点では、大いに「面白かった」し「楽しめ」ましたが。