ストラディヴァリウス

音楽の先生と友人と三人で食事をしました。
そこで興味深い話を聴きました。

さる場所で行われたヴァイオリンのマスタークラスを聴き入った折、高名なヴァイオリニストである先生の使うヴァイオリンが、かのストラディヴァリウスだったそうですが、休憩時間はその歴史的名器をポンとテーブルに上に起きっぱなしだったので、ここぞとばかりつぶさな観察をしたらしいのです。

はたして驚いたのは、まずネック(上部の調弦をするさらにうしろ)部分などは、流麗な渦巻きのようなカーブの内側のさらに内側のちょっとノミが入りそうもない部分にまで精緻を究める細工がされているらしく、それひとつとってもどうやって制作されたのかと思ったとか。

また全体の木の目は、すべての幅が一ミリぐらいの猛烈に細かいものを使われていたとのことでしたから、これはよほど北イタリアの寒い高地だけにある厳選された素材が使われたことであり、同時に200年以上前はそういう木を切って楽器制作に供することができた良き時代であったというのも感じざるを得ません。

またヴァイオリンを正面から見た場合、左右対称かと思いきや、さにあらずで、微妙に左右のふくらみやカーブの加減が明らかに違っていて、ストラディヴァリがわずかな加減を自分の経験で微調整しながら制作したことが窺えるのだそうです。
また表裏にある楽器の隆起についても各部分がそれぞれが大きさや高さが微妙に違っていて、低音、高音その他の目的に完ぺきに適うように、まさに神業的に作られているということに驚いたそうです。
弦の左右にあるF字溝(この字でいいのか?)も左右対象ではなく、微妙に二つはずれているのだそうで、それに加えて膠の秘密などもあり、そういうものの総体的なバランスがストラディヴァリウスのあの輝かしい音色を作っているのだと思うと、まさにこれは神の領域という気がしました。

やはり楽器の世界というものは尋常一様なものではないということのようです。
とくに弦楽器のような構造の単純なものになればなるほど、謎と神業の関係が複雑になるということかもしれません。
それから見ればピアノなど、まだまだ工業製品の要素がうんと強い楽器に思えました。

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