笑顔の記憶

お食事リンクにあるハシダ洋菓子店は、数ある洋菓子店の中でも、独特のお店だったと思います。
時代の波で、洋菓子店といっても次々に新しいものや変化が押し寄せてくる中で、ハシダ洋菓子店は小さいけれども決してスタイルを変えない店で、ここに行くとマロニエ君が子供だった頃そのままの、まさに昭和の時計が止まったまんまといった風情でした。

この店は老いたご夫婦でやっていて、作っているのは頑固一徹のような職人肌のご主人で、普段は店の奥で黙々と仕事をしていて、お客さんともまずほとんど口をききません。ごくまれに接触しても、その無愛想なことといったらありませんでした。

そんなご主人とは対照的に、小柄な奥さんはいつもエプロン姿で店頭に立ち、いついかなるときにも例外なくこぼれんばかりの笑顔で接客していましたから、この店のイメージはそのまま奥さんのイメージでもあり、とびきりの笑顔と丁寧な接客で成り立っているのは、この店を知る人ならみんな知っているはずです。
常連さんだけでなく、はじめてこの店を訪れた人でも、この奥さんの笑顔と接客姿勢は強く印象に残るものだったようです。

ケーキの種類なども決して豊富ではなく、中にはどう見ても時代遅れなものもありました。
それでもいくつか好きなものがあり、おまけに休みもなく、いつでも夜遅くまで確実に開いているので、考えてみるともうずいぶん長いこと、ふっと思い出しては買いに行っていました。
中でも、クリスマスなどのデコレーションケーキは、生クリームとスポンジという基本形なので、そこはご主人のベーシックな製法が功を奏して、とても美味しく、そのうえに安いので毎年注文するのが我が家の慣わしでした。

それが数日前に会った知人から、思いがけない話を聞かされ大変なショックを受けました。
店の看板ともいうべきあの奥さんがつい最近、病気で亡くなったとのこと。
それを追いかけるようにご主人も同じ病気になり、ついに店はシャッターを降ろしたという話でした。

マロニエ君の意識の中では、未来永劫あの店はあそこにあるものと思っていただけに本当に驚かされました。
昨日、気になって店の前を通ってみたら、なるほど昼間だというのにシャッターが降りていて、小さな張り紙がしてありました。
…長いこと、本当にお疲れ様でした。

笑顔の記憶」への1件のフィードバック

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    脚フェチの貴方、自分好みの脚で脚コキされてイカされたく有りませんか?プロ級の脚コキなら手の数倍は気持ちいいですよ

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