バッハだけの世界

いまさら言うまでもないことですが、バッハの作品ほど楽器の特性を超越したところで作曲された音楽というのは類がないと痛感しました。

例えば、多くの鍵盤楽器の作品が、チェンバロから現代のモダンピアノまですべてを楽々と受け容れて演奏されるのは当然としても、ゴルトベルク変奏曲が弦楽合奏で演奏されても、何の違和感もなく音楽をして快適に聴き進むことができるのは多くの人が知るところでしょう。

未完の大作である「フーガの技法」もチェンバロ、オルガン、ピアノと楽器を選ばないところにこの孤高の作品は位置しているように思われます。
また昔はプレイバッハなるジャズバージョンも流行したことも忘れるわけにはいきません。

さて、最近珍しいCDを手に入れました。
ブランデンブルク協奏曲(全曲)をマックス・レーガーの編曲でピアノ連弾によって演奏しているものです。
ネットで見つけて、どんなものか面白そうなので買ったのですが、鳴らしてみると、面白いというよりはうんとまともというか、非常にすんなりと音楽が耳に入ってくるのに驚きました。

ブランデンブルク協奏曲は、すでに合奏協奏曲での演奏で耳にタコができるほど聞き込んでいる名曲中の名曲ですが、それが今はじめてピアノで鳴っているというのに、何の違和感もなく曲がすらすらと現れて流れるのには驚きました。
まるで、もともとピアノ曲であったかのように自然で、いつしかオリジナルが合奏協奏曲であったことをつい忘れさせるほどです。

こういうことは、しかしバッハだけのものであって、たとえばリストがソロピアノに編曲したベートーヴェンの交響曲(一時期カツァリスがよく取り上げていました)や、2台のピアノで演奏されるブラームスの交響曲などは、聴いていて意外性やそれなりのおもしろさは感じても、しだいに飽きてきて、最後にはどうしてもオーケストラの演奏を聴かずにはいられない欲求に駆られるものです。

ところがこのピアノ連弾によるブランデンブルク協奏曲はそういう不満感がまるで起きないのです。
演奏ももちろん見事で、ピアノも100年以上前のスタインウェイを使って演奏されていますが、そんなことよりもバッハの超越的な作品の凄さというものをひしひしと感じさせられるCDでした。
やはりバッハは時代や楽器を超えた、孤高の作曲家ですね。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です