先に紹介したモーストリークラシックのスタインウェイ特集を見ていると、目薬などで有名なロート製薬の会長(といっても若い方でしたが)がピアノが好きで、大阪の本社には800人収容のホールがあるそうなのですが、そこに今年スタインウェイのコンサートグランドが入れられたとありました。
親しい楽器店から購入したというそれは、1962年のD型といいますからすでに50年近く経ったピアノです。
一説には、戦後のハンブルクスタインウェイでは1963年前後のピアノがひとつの頂点だと見る向きもあるようで、まさにその時期の楽器というわけでしょう。
この若い会長は小さい頃、いやいやながらもピアノを習った経験を生かして現在では練習を再開し、家にもヴィンテージのスタインウェイA型があるとか。
こうくると、その親しい楽器店というのもおおよその察しがつくようです。
驚いたことにはロート製薬の中にクレッシェンドという名の20名ほどのピアノ同好会があり、この自前のホールとピアノで演奏を楽しんでいらっしゃるそうで、なんとも粋な会社じゃないかと思いました。
20名というのがまたジャストサイズで、ピアノに限らずサークルやクラブのたぐいは会社や政党と違って、大きくなれば良いというものではなく、一定人数を超えるとどうしても会はばらけ、情熱や意欲がなくなり、互いの親密度は薄れ、参加意識も責任意識も失われていくものです。これに伴い人同士の交流も表面的なものに陥るばかり。
ここに天才級の坂本龍馬のようなまとめ役でもいれば話は別でしょうが、一般的にはこの法則から逃れることはできません。
マロニエ君もピアノではないものの、趣味のクラブを通じてそのことは身に滲みていますし、現にそれを知悉して人数の制限をすることで密度の高い活動を維持しているピアノサークルもあるようですが、これは実に賢いやり方だと思います。
それにしても、わずか20名が「自前のホールとスタインウェイ」で例会を楽しむというのは、ピアノサークルにとってまさに理想の姿ように思われます。
マロニエ君が所属するピアノサークルでも、リーダーの頭を常に悩ませるのは定例会の場所探しの問題のようです。
安くてピアノがあって、しかも気兼ねなく使える独立した空間というのは今どきそうそうあるものではありません。
ホールならそこらに余るほどごろごろあるので、それをポンと借りられたら世話なしですが、いかんせん高い使用料がそれを阻みます。
ロート製薬のピアノ同好会は場所や料金の心配なしに、専ら活動にのみ打ち込めるのは、あまたあるサークルの中でもまさに例外中の例外だといえるようです。