ホールでの雑感

先日は知人からの急な誘いで、とあるホールのピアノを弾かせてもらいに行きました。
ここはすでに何度か足を運んだことのある会場で、新旧二台のピアノを弾くことができました。

古い方のピアノは50年近く経過したピアノですが、管理がいいことと、このホールの主治医(保守点検をする技術者)の腕が優れているために、非常に素晴らしい状態が保たれています。
それだけでなく、この世界の名器の持つ強靱な生命力にもあらためて感嘆させられました。

とりわけ今回感じたことは、そんな歳のピアノなのに、タッチが非常に瑞々しくてコントローラブルな点です。
タッチはピアノの中でもとりわけ機械的物理的要素の強い部分だけに、古いピアノではまっ先にガタなどがでるものですが、それがこれだけ良好な状態を保っていること自体、驚きに値することです。

もちろん50年近い時間経過の中でどのような経過を辿ってきたかは知る由もありませんから、専ら今現在のことしかわかりませんが、どう考えてみたところで、結局はピアノの素性の良さ、手入れの良さ、それに主治医の優秀さ以外には思い当たりません。

唯一残念なのは音の張りと伸びがやや劣ることで、これはマロニエ君の素人判断では、ずいぶん長いこと弦交換がなされていないためだと思われました。弦やハンマーはいわゆる消耗部品ですから、その点だけは技術者の日ごろの管理だけではどうにもならないものがあり、交換するにはかなりのコストも要することからホール側、あるいは行政側の担当者の意向に大きく左右されることでしょう。
これが関係者の間で実行されるような判断が働けばいいのにと、部外者のマロニエ君は切に思うばかりです。

いまさらですがホールという空間は実に不思議な、魔法のような空間だと思いました。
それはピアノの周辺ではピアノの音は自宅で聞くそれよりも一見パワーがないように感じるものですが、少し離れて客席に移動すると状況は一変し、朗々とした力強い響きが解き放たれるようにあたりを満たしていることがわかります。さらにホールの中央から最後部へと場所を移しても、音源からの距離の違いがもたらす響きの違いはあるにしても、ピアノの音のボリューム自体はほとんど変わらないかのように聞こえるのは、あらためてすごいもんだと思います。

よく雑誌の企画などで、「あなたの理想のピアノの音とはなんですか?」といったたぐいの質問に、判で押したように「ホールの隅々まで行きわたるような音」という意味の答えをするピアニストが多く見受けられるものですが、ホールでこういうチェックをしてみると、それはピアノというよりは、ホールのほうに寄せるべき心配だと思われましたし、よほど時代遅れな音響設計のホールでなければ、多少の差異はあるにせよもうそれでじゅうぶんでしょう。

そんなに音が隅々まで行きわたってほしいなら、それに値する質の高い演奏、人の心にしみわたり、魂を揺さぶるような音楽を聴衆に提供することに専念してほしいものです。

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