ヤマハのUPピアノを落ち着いて弾く機会がありました。
1996年製のUX300で、X支柱、アグラフ仕様、サイズは131cm、トーンエスケープという譜面台を手前に引き出すタイプで、その両端には縦に木目があしわれた、現在もYUS5として続いているおなじみのスタイル。
ヤマハは子供の頃から20年以上お世話になったので、私の体の深いところにはその経験が残っているようで、眠っていたものがよみがえって懐かしく感じるところが多々ありました。
どのメーカーにも言えることですが、サイズや形状(GPかUPか)や製造年が違っても、ブランドの個性は綿々と引き継がれるものらしく、これは考えてみればきわめて不思議な事だなぁと思います。
いわばピアノのDNAみたいなものでしょうか?
以前、有名ショップでスタインウェイのUPを触らせてもらったとき、あまりにもスタインウェイの音だったことは想像以上で、かなり衝撃的だった記憶があります。
ヤマハに戻ると、やはりGPでもUPでも、そこに通底するものは同じ肌触りであることをまざまざと感じます。
もちろん、各モデルや個々の状態で違いがあるのは当然ですが、ここで言いたいことは、そこに吹きこまれたメーカー独特の世界や手触り、スピリットが同じだということでしょうか。
こういうことをひっくるめて「ブランド」というかもしれません。
ヤマハでなによりも感じるのは、健康な骨格に恵まれたアスリートのような頼もしさと、全音域にわたるヤマハらしいバランスでしょうか。
どの音域も互いの連携がとれており、中音以上での華やかな輝き、低音の太い迫力などいずれもぬかりなく、さらによく出来たアクションに支えられてタッチも軽快、どこをみても死角のない製品で素直に大したものだと思います。
音にはガツっとくる迫力があり、労せずしてよく鳴ってくれますが、あまりに奏者に向けて音が盛大に向けられてくるあたり、これは慣れないと少し戸惑いました。
逆にこれが普通になってしまうと、他のピアノでは物足りなさを感じてしまうのではないか?と心配になるほど。
人間の感覚は、かなりの部分が相対的だから、濃い味付けに慣れている人が薄味の料理を食すと、食べた気がしないようなものかもしれません。
いずれにしても、量産ピアノでこれだけ活気があって、バラつきのない高品質が維持され、耐久力にも整備性にも優れる(らしい)というのは驚くほかはなく、ヤマハが世界を制したのも納得です。
個人的には国内2大メーカーだとカワイ派ですが、違う楽器でも入力に対して似たような音が出ることの多いヤマハは安心して弾けるモノだとは思います。
なんというか、楽器の音を聴かせるのではなく、曲そのものを聴かせるためにある気がします。
戦前のものになるとまた違った味が出てきますが…
ただ、音の迫力に関しては良くも悪くも感覚が狂わせがちで、どんな楽器を弾いてもバンバン弾きがちになりやすいのはヤマハ最大に弱点だとは思います。
アクションが突出して素晴らしいことは誰もが認めるところですが、タッチの階層が薄く、あまりに安易に音が出るのでついバンバン弾いてしまうのかもしれませんね。
「違う弾き方もいろいろ試してみませんか?」というような楽器からの問いかけみたいなものが出てくれば鬼に金棒だと思いますが。
ヤマハは壊れにくい、直しやすい工業製品ということでどの個体も均一な音が出せて、楽器というよりかは学習用の音が出る機器という印象があります。
アクションも精巧で、指はよく動くようになるのでしょうが、音色で感動したり奏者と共に会話したりといった事はどうしても乏しいように思います。
私もずっとヤマハでしたので、今思えばそういった事は皆無でした。特に楽しくもなく一体何のために弾いていたのだろうと思います…。
日本も西洋のようにもっと様々ないいピアノが影に隠れずに当たり前にあったら、色々な事が変わっていただろうになと思います。
マロニエさんのブログに出会わなければ、ピアノの楽しさを知ることなんて一生なかったと思います。ただただ感謝でいっぱいです。
的を射た表現に思わず感動!させられました。
ヤマハの製品としての優秀性は衆目の認めるところで、個人的にもお世話になりましたが、愛着は最後まで抱けず、きわめてサッパリした関係でした。
ピアノに限りませんが、楽器はまずは音を出すだけでも楽しかったり、日によってご機嫌を伺うような、そういうものであって欲しいと思います。
本当に、ピアノという高価な楽器が大量生産の技術のおかげで一般家庭にも手が届く値段で提供でき、さらには音楽教室を通して我々庶民でも気軽にピアノ音楽に触れることができるようにしたという点は、まさにYAMAHAの功績だと思います。感謝しないといけませんねぇ。以前、友人と東京旅行した際に銀座山野楽器だったかな?で旅の恥はかき捨てと、ピアノを試弾させていただいた折、1千万円を超えるCF4も紛れもないYAMAHAの音色だったのには妙な感慨を感じたものでした。同じ形、似たような大きさをしているのに、スタインウェイともベーゼンドルファーとも全く異なる響き方で、メーカーごとにこんなに音色が違うのかと知った原体験でした。面白いですよねぇ。
メーカーの個性というのは本当に不思議で、価格の高低にかかわらず、そのブランドの音や体臭みたいなものがするんだなぁと思います。
SU7を触った時も、さすが最高級のUPという感じはしましたが、同時にまぎれもない「ヤマハ」を感じて、当たり前のことに驚きました。
CF4を弾かれたとは羨ましい、私はまだ現物を見たこともありませんが、CF4と6は、確かピン板が露出しているのがどういうわけなんだろう?と思います。
ヤマハはサイトやカタログでも、モデルごとの説明は最小限で、ふわふわした抽象的な言葉が多い印象です。