3月2日にアップした拙文「共通化-追記」の終わりに、「いつの日か、スタインウェイもどこ製か伏せらてわからなくなる日がくるのかも?といった想像さえしてしまうこの頃です。」と書いたばかりですが、その杞憂はすでに到来しているのでは?…という疑念に駆られる事がありました。
YouTubeでスタインウェイ&サンズ東京を訪ねる動画は複数いろいろ存在しますが、その中に「…ん?」と思うシルエットが映りました。
これまでは、ニューヨーク製(NY)とハンブルク製(HB)を見分けるのはわけもないことで、特殊モデルは別として、近代のレギュラーモデルではそれを見誤ることはありませんでした。
ところが、最近の共通化によって、従来の違いはほぼなくなり、HBスタイルに覆い尽くされてしまいました。
かろうじて残るいくつかの違いのひとつが、大屋根を開けた時のシルエットですが、これは前屋根を開ける(折り曲げる)位置と面積の違いによるもので、その結果はNYのほうが狭くスマートなのが特徴でした。
ちなみにヤマハのコンサートグランドが、ステージ上で鈍重に見えるのも、ほぼ同じ理由からです。
言葉だけではわかりにくいので、図を作ってみました。
AとB、実は奥行きも形状もまったく同じですが、違いは前屋根部分をどこで切り分けているか、それによるカタチと面積のみ。
前屋根の面積が狭いのがA、広いのがBで、たったこれだけのことでピアノのフォルムは大きく違って見えるのです。
感じ方は人それぞれだと思いますが、私はAのほうがスマートで美しく、Bはややボテッとした重い印象となり、ファッションでいうなら、手足が長く見える着こなしと、そうではない場合の、2つの例のように見えませんか?
繰り返しますが、両方とも原形はまったく同じ寸法・形状です。
前置きが長くなりましたが、動画の店舗に並ぶピアノは、手前右のBから大きさ順に並んでいて、奥にあるのがOもしくはMだと思われますが、その大屋根の形がNYの比率のように見えたのです。
しかも上記のように、現在はNYもHB仕様のルックスになっているので、パッと見だけではわかりません。
動画出演者は店員さんと会話をしながらあれこれのモデルを試しますが、なぜかそのピアノには行き当たらないあたり、偶然かもしれないけれど、それがよけい疑念を膨らます要因の一つになりました。
実際には、購入を検討するお客さんには生産国は告知されるのかもしれないから、ここでなにかを断定することはできませんが、以前よりもずっと曖昧になっていることは間違いないような気配です。
いずれにしろ、スタインウェイ級の新品ピアノを買う人にとって、その生産国がドイツかアメリカかは、「どうでもいいこと…ではないだろう」と思うのです。
ジャーナリズム的にいうなら「知る権利の問題」というところでしょうか?
現代のピアノ生産においては、多くのメーカーで生産国の問題はかなりグレーな領域のようで、それはますます加速していくようですが、「iPhoneは中国製です、それが何か?」みたいに開き直りもピアノではできないのでしょうね。
ニューヨーク製とハンブルク製の大屋根の図は、確かに印象が異なりますね。
ネットで両方の違いを示す動画も見てみましたが、本来の作りではこうも違いがあったのかと驚きました。
NYは一つ一つの細部が本当に粋ですね。こういう特徴が消えていってるとは惜しいことです。
目の前の合理性だけを追ってせっかく築き上げたブランドイメージを崩していくと、いずれ自らの首を絞めることになりそうな・・・。
今回お話にあった生産国の大切さといえば、最近プレイエルで思うことがあります。
今通っているレッスンで使っているピアノはプレイエルですが、先生によると「ドイツが買収して後のものだからショパンのプレイエルとは違う」とのことでした。1970年頃、経営難を機にシンメルが買い取ったそうですね。
実際、音は中身が詰まってしっかりした感じでかなりドイツ寄りです。シンメルの下になって中の構造や材料を変えたのでしょうか。
音が良い悪いというのではなく、個人的には顔(ロゴ)と声が合っていないようでしっくりきません。
このピアノを弾いていると、「プレイエル」として生きながらえた意義がどこまであったのか…という思いが時々頭をよぎります。
プレイエルはおっしゃるように一時期シンメルが製造していましたね。
その後、プランスピアノの伝統を復活させるということで、2000年頃だったかフランス製のプレイエルが蘇ったものの、大して発展することもないまま再び消えていったのは非常に残念です。
日本にも輸入され、私も何度か触れたことはありますが、すこしも野暮ったくない、それなりの魅力はあったと思います。
しかし、メジャーブランドだけが幅を利かせるピアノ製造の世界で、フランスからの参入は難しかったのだろうと思います。