ショパンの手形

今年の夏ごろのこと、東京にいる音楽好きの友人によると、彼の知り合いが今年のショパンコンクールに行くというので、ショパンの有名な手形を買ってきてくれるように頼んだという話を聞いて、それなら申し訳ないがぜひもう一つと言ったところ、すでにマロニエ君の分まで頼んでくれていました。

ご当人が帰国されてずいぶん経ちますが、なかなか会う機会がなかったというので、先日ついにその手形が送られてきました。

わかってはいても、実物を見るまではまさにドキドキものでした。
果たしてそれは実物大のショパンの左手の立体モデルで、知る限りではブロンズ(金属)と石膏の二種類があるようです。
もちろんどちらでもよかったのですが、受け取ったのはブロンズのほうでした。

マロニエ君はショパンコンクールの会場にでも行けば、こういうものはたくさん売っているのかと勝手に思っていたのですが、全くそうではないらしく、こんなお願いをしたばっかりにその人はワルシャワ市内をあちこち探し回ってくれて、苦心の末にやっとあるところで見つけて買ってきてくれたという事を聞き、感謝感謝です。

ショパンが小さな手をしていたことはつとに有名です。
むかし東京のショパン展でガラス越しに見た手形の記憶でも、えらく小さいという印象だけが残っていましたが、ついにその実物が我が家に届き、じっくりみてみると、なるほどショパンらしい繊細な細長い指ですが、全体の大きさは、どちらかといえばやや小柄な女性の手ぐらいといったところです。
マロニエ君も身長に較べると手は大きい方ではないので、ピアノを弾くにはあまり恵まれていないと思っていましたが、それでもショパンの手とくらべるとまるで大きさが違います。
よくぞこんな小さな手で数々の演奏会を開き、そしてあんなにも複雑で指の届かないような曲を書いたものだと、ショパンの傑出した天才には驚きを新にさせられます。

むかしこれと同じ物の石膏の手形に、アルトゥール・ルービンシュタインがサインをしてほしいと求められたところ、「ショパンの手に私がサインなどできない」と言って、代わりに小さなハートを書き込んでいるところの写真があるのを思い出しました。
いかにも彼らしい気の利いた振る舞いですね。

知人に聴いたところでは、北九州市立美術館の分館で行われている「ポーランドの至宝・レンブラントと珠玉の王室コレクション」でも同じ物が展示されていたといいますから、それが我が家にあるのだと思うと妙に嬉しくなりました。
もしやネットオークションあたりでは買えるのだろうかと思い、あれこれ検索してみましたが、かすりもしませんから、やはり日本ではまだまだ貴重なもののようです。

さて、どこに置くかをずいぶん悩みましたが、やはりピアノの上しかありません。
その手を置いたピアノでショパンを弾くのは、なんだか厳粛な気分になってしまいます。

皆さんにも見ていただくべく、表紙の写真のひとつをこの手形に差し替えました。

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