腰の具合が長引いて、座る姿勢が保ちにくいのですっかりご無沙汰してしまいました。
すこし前、BSプレミアムでダニール・トリフォノフのドキュメント映像が放送されました。
正直いうと、私はトリフォノフの演奏のどこがそんなにも素晴らしいのか、あまりよくわからず、それでも絶賛する向きもあるようで、少しでもそれを掴みたい気持ちもあってこの映像と向き合いました。
あんなに言葉を尽くされ、焦点を当ててドキュメントフィルムになるということは、こちらにそれを解する耳がないといえばそれまでですが、置き去りにされたような気分にもなるのです。
演奏への理解が最優先ではあるけれど、彼の風貌もどちらかというと苦手であることも、そこに拍車をかけているかもしれません。
2010年のショパンコンクールに上位入賞して、しばらくはロシアの美青年といった風な感じでいたけれど、演奏の様子はちょっと独特なところがあるし、加えて近年は髭を生やしたことで、そのイメージはますます特異なものになりました。
たかがヒゲぐらい、外国人男性なら今どき少しも珍しいことではないけれど、トリフォノフはそれがやけに特徴的に映るのは私だけでしょうか?
このフィルムのインタビューでも、わざわざヒゲのことについて質問されているところをみると、やはり外国人から見ても少しそんな印象があるのかなぁ?と思ったり。
思わず答えに興味をもったものの、明確な答えはありませんでした。
トリフォノフのヒゲの生やし方は顔の下半分が真っ黒になるほど盛大なもので、まるでびっしりと蜂の大群かなにかが群がっているよう。
対照的に頭髪はえらく直毛で、細いそうめんが垂れ下がっているようで、それと硬いヒゲとの対比がいよいよ独特に感じます。
さらにロシア人特有のほとんど笑顔のない沈鬱さが加わることで、それはもう怪僧ラスプーチンのよう…。
それを忘れさせるほど演奏に集中できればいいのだけれど、私には残念ながらそうもいかないため、どうしても意識が散って、あれこれと観察に及んでしまうと、やはり気にかかってしまいます。
ピアニストは演奏で勝負するものだから演奏のみで語るべきという大原則はあるわけですが、そうはいってもやはり視覚的な要素も完全に排除はできないというのが、人間の正直な心じゃないかとも思います。
知り合いには、この点を盛大に主張して憚らない人が居ますが、例えばラドゥ・ルプーなどはどれほど演奏が優れていようが、あの風采を見ただけでまったく受け付けない!とバッサリ切り捨ててしまいます。
これはいささか極端と思ったけれど、人の抱く感情はそれぞれだから、それもわからないでもありません。
また、素晴らしい演奏をしても存在感その他で、演奏に見合った地位を得られないピアニストも現実にいるというのは否定できませんし、一時期より下火になった気もしますが、日本人女性演奏者のお姫様スタイルも、やはりビジュアルが引き起こす問題のひとつです。
どれだけ「見た目じゃないんだ!」と言ってみたところで、やっぱりそれは一要素であることも事実でしょう。
宝塚の男役みたいだったアヴデーエワも、基本路線は変わらないけれど、最近では多少やわらかな雰囲気に微修正してきているようにも感じるし、相変わらずなのは、ユジャ・ワンなどでしょうか。
相変わらず水着のような衣装と、床に突き刺さりそうな鋭利で高いヒールの靴をはき、ひょこひょこ歩きでステージに出てくるスタイルはいまもって堅持しているようだけれど、だれであれ、もう少し音楽に集中できるものであったほうが、私などにはありがたいと思います。