自己愛性人格障害

精神分析によって一人の音楽家を論じる本を読んでいると、注目すべき記述が目に止まりました。

マロニエ君は以前、ある人物とほとんど不可抗力的に関わりができるハメになり、一目見たときから強烈な苦手意識と嫌悪感が、まるで電流のように全身を走ったのを今でも覚えています。
こういう第一印象はどんな理屈よりも確かなもので、むろん覆ることはありませんでした。

もともと棲む世界のまったく異なる、出会うはずのない人物で、幸いにしてその人とのご縁も既に消滅し、ホッとしているところですが、考えようによっては哀れを誘うところもありました。
むろん具体的なことは一切書きませんが、世の中にはこういう人もいるのかと社会勉強にさえなったというところでしょうか。

さてその本を読んでいると、まさにこの人のことではないかと思えるような下りがあり、一般論としても非常に興味深いことだったので、ちょっとご紹介してみようと思います。

その章では医学的に言う「自己愛性人格障害」という精神科領域の問題を取り扱っており、著者が精神科の現役の医師であるところから、個人的な性格の範疇ですまされるか、あるいは加療を要する精神疾患の領域とみなすかという区分のための症例が、分析的に整理・表現されています。
自己愛性人格障害の診察基準として次の9つの項目を列挙しており、これに5つ以上該当すればこの症状だと医学的に診断認定されるそうです。

1)自分の重要性に関する誇大な感覚。(例:業績や才能を誇示する。十分な業績がないにもかかわらず、自分が優れていると認められることを期待する。)
2)限りない成功、権力、才気、美しさ、あるいは理想的な愛の空間にとらわれている。
3)自分が「特別」であり、独特であり、他の特別なまたは地位の高い人達にしか理解されない、または関係があるべきだと、と信じている。
4)過剰な賞賛を求める。
5)特権意識、つまり特別有利な計らい、または自分の期待に(他者が)自動的に従うことを理由なく期待する。
6)対人関係で相手を不当に利用する、つまり自分自身の目的を達成するために他人を利用する。
7)共感の欠如:他人の気持ちや欲求を認識しようとしない。またはそれに気付こうとしない。
8)しばしば他人に嫉妬する、または他人が自分に嫉妬していると思いこむ。
9)尊大で傲慢な行動、または態度。

果たして、冒頭の人物は5つどころか、なんとほぼすべてに該当すると思われ、なるほどあれは病理的な根拠のある病気だったのかと思えばいくらか納得もでき、今は陰ながらご同情申し上げるしだいです。

自己愛がとりわけに障害に結びつくのは、「誇大な自己が危機的状況になったとき」だそうです。
簡単に言えば危機的状況になったらなんらかのかたちで大暴れするというわけでしょう。

また、「自分の弱さを隠したい人は威嚇的な言動をとる」さらには「自己愛性人格障害の患者は、自己不信を補強するために誰にでも見えるような外的価値に強く依存する」というのはまったくもってなるほどと思いました。

みなさんのまわりにも程度の差こそあれ、こういう人物がいるかもしれません。
もしお付き合いに苦痛を感じる人がいるときは、ちょっと上記の9項目をチェックしてみられたらどうでしょう?
決して貴方が間違っているのではなく、相手が精神疾患ということがあるようですよ。

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