松葉ぼうき

「松葉箒(全国的には「熊手」というようですが、博多では昔からこう呼びます)」はどこにでも売っている落ち葉を掻き集めるための箒ですが、これにも良し悪しがあるのです。
これまではホームセンターなどで買ってきたものを普通に使っていましたが、あるとき知り合いから一本の松葉箒をもらいました。

なんでも近くに住む老人が好きで作っているというもので、毎年数本ほどもらっているのだそうですが、見た目がまずなんとなく繊細で上品な感じだなあというのが第一印象でした。

ところが驚いたのは実際に使ってみたときの絶妙の感触でした。
箒の先が地面に当たりこちらに引き寄せようとするときに、なんともいえないわずかな弾力があって、やわらかくしなるように作ってあるのです。このしなりがあるために使い心地が良いだけでなく、地面(とくに苔など)を必要以上に傷つけず、使い手も掃くたびに手や肩につたわる小さな感触に丸みが加わって、疲れがとても少ないわけです。

しばらくこれを使ってみて、またもとのホームセンターの松葉箒を使ってみると、そのいかにもラフでがさつな感触にすっかり嫌気がさしました。見た目はいっぱしですが、やたらと固いばかりでしなやかさというものがなく、掃いたあとも粗っぽい感じがします。
使い心地の悪さがあまりに明らかで、いらいこの一本しかない松葉箒を大事に使うようになりました。

ところがつい先日のこと、他の用でホームセンターにいったところ、金属の柄の先に柔らかいプラスチックを使った松葉箒が売っていました。価格は竹のものに較べて3倍ぐらいするし、見た目は柄は緑、先はプラスチック特有のオレンジ色でなんとも趣がありません…というかはっきり言って下品です。
しかし、店の床(フローリング)で感触を試してみたところ、あの手作りの松葉箒にも似た優しい弾性があって、これは良さそうだと感じ、とりあえず買ってみることにしました。

翌日、さっそく期待を込めて試してみたところ、しかし結果は「まあまあ」というレベルに留まりました。
弾性がある点は予想通りよかったのですが、プラスチック特有の感触が竹に較べてなんとも無機質で味がなく、一番の違いはそれまで意識したこともなかったことですが、竹の松葉箒はひと掻きするたびに竹から発せられるシャアシャアという乾いた音がするのに対して、プラスチックはほとんど無音なのです。

たかが落ち葉を掃くための松葉箒にも、実はこういうこまやかな、一見どうでもいいような風情があるわけで、人は無意識のうちにいろんなことを感じているものだということがわかりました。

マロニエ君はこれまで枯葉を掃く箒の音にも風情があるなんて考えてみたこともありませんでしたが、実際にこうして音のしない松葉箒を使ってみると、そういう何気ないことが人の心に伝わる感覚にはとても大切なのだということがわかりました。
たかだか箒ひとつにも味わいというものが、あるいは道具には微妙な使い心地というのがあるようです。

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