駐車場劇場

駐車場といえば、おかしな話を思い出しました。

過日、天神のいつも利用するソラリアビルの駐車場に車を止めようと入りましたが、いつになく混んでいてなかなか空きがなく、通常より上の階まで来てしまいました。

ある車がヘッドライトをつけているので、さすがにその車は出るのだろうと思い、近くで待機していましたが、待てど暮らせど動く気配がありません。
また例の意地悪かと思って少し近づくと、車内で60ぐらいの男性が携帯電話をいじっていましたが、マロニエ君と視線が合うなりヘッドライトが誤解のもとだと気が付いたとみえて、パッとライトを消してしまいました。

そのうち、別の場所が空いたので、そこに止めて車を降り、エレベーターホールに向かいましたが、さっきのおじさんはまだ車内で携帯を操作中でした。

さて、それから約1時間半後、用事が済んで車に戻るとまだその車がいるので、「まだいるんだ…」と思ったと同時に、なにやらただ事ではない様子の人の声が響いてきました。

声の方向はその車の後ろの壁のあたりからで、いつの間にか女性が現れていましたが、その女性相手にさっきのおじさんがたいそう興奮した様子で必死に詰め寄り、大声で文句を言っています。
直感で、痴話げんかであることがわかりましたが、根が野次馬のマロニエ君ですからこういうことは当事者には悪いのですが嬉しくなるほうで、こりゃあなんともジャストタイミングなところに出くわしたもんだと咄嗟に我が身の幸運を思い、できるだけ気づかれないよう、自分の車までの長くはない距離を、まるで時間を惜しむように歩きました。

こちらの好奇心とは裏腹に、当人達はかなり深刻な様子で、言葉の感じからどうやら女性に別の愛人がいるようで、そのためにそのおじさんは自分のお金まで勝手に使われて、怒り心頭して張り込みを決行し、ついにこの女性をキャッチしたという、まさにそんな場面のようしでした。
思いがけない出来事に遭遇し、はじめはこちらもつい興奮してしまいましたが、事情がわかるにつれだんだんそのおじさんが可哀想になりました。
こういう場面で男が、腹をくくった女性に挑んでも負け戦になることは目に見えています。

マロニエ君が自分の車に乗ってエンジンをかけるころには女性のほうがサッとその場を離れ去り、おじさんは仕方なく一人自分のベンツに乗り込みました。
ベンツの立派な顔が泣いているようでした。

「俺は一生懸命オマエに尽くしてきた!」「あの金はどうしたのか!」「ここで何時間待ったと思ってるのか!」というおじさんの切羽詰まった声がいつまでも耳に残りました。
いらいその駐車場に行くと、そのおじさんはその後どうしたんだろうと思い出してしまいます。

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