偽造楽器

マロニエ君の友人にはフルートが好きで、いまだ独身であるのをいいことに、何本ものフルートを収拾している馬鹿者がいます。
それもありきたりのフルートではなく、パウエル、ヘインズ、ハンミッヒ、ルイロット、ムラマツといった世界に冠たるメーカー品ばかりです。

ところがフルートのような小さな楽器というのは、価値の高いとされる昔の名工の作品など、いわゆるヴィンテージ楽器になるとニセモノをつかまされるという危険性が付きまといます。
完全な模造品もあれば、中にはニセモノではないものの、いくつかの本物の楽器のセクションをつなぎ合わせただけといったいかがわしいものなど、なにかしら疑念の残るものがあったり、あるいは何人ものオーナーの手を経るうちに勝手な改造がほどこされていたりと、このあたりになると実に怪しい、人間不信になるようなダーティな世界に突入してしまいます。

さらに恐ろしさもケタが違うのはヴァイオリンなどの弦楽器で、よほど出所やルーツが確かなものでないと、うっかりニセモノに天文学的大金を支払って購入するなんてこともあるわけです。
現実にストラディヴァリウスやグァルネリといった名を語る精巧なコピー楽器も出回っているとかで、どうかすると鳴りも本物並みのものさえあったりするとかで、虚実入り交じる、まったく恐ろしい世界のようです。一挺が途方もない金額の世界ですから、さぞやニセモノ作りにも熱が入るということでしょう。

その点では、ピアノ好きは自分の楽器が持ち運びできないという決定的なハンディがある反面、まさかピアノのニセモノなどというのはないから、その点ではずいぶんと健全な世界だと思っていました。
恐いのはせいぜい好い加減な修理をされたブランド楽器が、本来の能力を発揮できないような出鱈目な状態で、高値で販売されるというぐらいのもので、楽器本体がニセモノなんていうのは見たことも聞いたこともありませんでした。

ところが、つい最近聞いたのですが、ある技術者の方の話によると、スタインウェイの模造品というのがあって、現にその方がそれを一度買ってしまい、手許に届いてニセモノとわかり大騒ぎになったことがあるという話でした。これにはさすがのマロニエ君も、まさかそんな事があるのかと驚いてしまいました。
それは楽器に無知な人の仲介によってアメリカから輸入されたピアノだったそうなのですが、鍵盤蓋のロゴマークはもちろんのこと、フレームにまでちゃんとそれらしい立体的な文字まであるという手の込んだものだったそうです。

仲介者も含めて騙されたということが判明し、なにがなんでもその人が責任をとろうとしたらしいのですが、悪意でないことは明白だったので、結局双方で痛み分けということになり、そのピアノはそれを承知の上で購入した人があったとか。
可笑しいのは、その偽スタインウェイが、そう悪くはないそれなりのピアノだったということでした。

こんな話を聞いてしまうと、そのうち、ご近所の大国あたりからこういう冗談みたいなピアノが出てくることも、可能性としてはじゅうぶんあり得そうな話ですね。現に冒頭の友人のフルートコレクションの中には、ヘルムート・ハンミッヒのスタイルを真似ただけの、例の国の粗悪品もあるということです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です