ヴァイオリニストの高嶋ちさ子さんが、いわゆる従来型の音楽専業の演奏家ではなく、テレビなどのメディアにも幅広く登場するタレント型音楽家で、さらにはウリにしているのが男前なサバサバした性格や、いったん口を開くと毒舌の連発というのも薄々知っていましたが、まともに見たことがなかったので、テレビの番組欄でそれらしい放送があることを知り録画して見てみました。
番組の女性タレントと有名司会者が、北海道の田舎で行われる高嶋ちさ子のコンサートに同行するというもので、二人がいる場所へ真っ赤のポルシェ・ボクスターが屋根を開けた状態で現れ、それを運転しているのが高嶋ちさ子といういかにもな演出で始まりました。
車を降りた彼女はいかにも番組慣れした態度で二人と合流し、途中農園に寄って新鮮なトウモロコシやトマトをかじったり、牧場で馬に乗ったりと寄り道をしながらコンサートの会場へ向かいます。
会場で待っていたのは高嶋ちさ子の両親で、意外や、このお父さんはなかなかのキャラで味のあるおもしろい人だと思いましたし、脇にいらっしゃるお母さんもそれなりの可笑しさがありました。
その点では、高嶋ちさ子のほうがよりパンチを効かせておもしろいことをしようとしているようですが練れがなく、作為的で、さすがお父さんは年の功だと言えそうです。
お笑いだって、笑いをとりたいのなら、そこは緻密なアンサンブルが必要でしょうに、音楽家なのになんでもちょっとしたタイミングがずれるのは要所のキレが悪い印象です。
毒舌もどれほどかと思っていたら、これまたまったくの期待はずれで、ただ下品な単語を発するのが毒舌ではないと思うのですが…。
後半はスタジオに場所を移しての展開となりましたが、その登場の仕方がまたテレビならではのものでした。
「高嶋ちさ子 12人のヴァイオリニスト」という一団が登場し、彼女を中心にV字形に並んで「剣の舞」を演奏。
若い女性ヴァイオリニストが12人並んで、有名曲を演奏してみせたからといってそれが何?という感じで、どこが魅力なのかまるきりわかりませんでしたが、最近はなにかとビジュアル系とやらで、こういうことが本当にウケる世の中なのでしょうか?画面にはしきりに公演日などが出ていましたが行く人がいるのでしょうね。
パンツ姿で演奏しているその様子は、顔立ちといい、骨太で大柄な体格といい、楽器を構えるその姿は、まるで汗の似合うアスリートのようでした。
マロニエ君は器楽演奏者がテレビタレントまがいの振る舞いをすることに決して賛成はしませんが、それはそれとして、テレビタレントとして見るならやはりどうしようもなく素人で、間が悪く、輝きがありません。
ヴァイオリニストとしてならタレント性があるように見えるのかもしれませんが、ではいったん芸能人の中に入ってあれこれやり出すと、そこはやはり本物の芸人には到底及びませんね。
彼女に限らず、現代はすべての領域において、その道の素人がプロの領域に進出して、結果どこにも「本物」がいなくなってしまったようです。あんな活動をするのに、果たして1億もするストラディヴァリウスが必要なのだろうかと思うのはマロニエ君だけではないはずだと思いました。