「みんなのショパン」は残りの第3部を見て、合計4時間半の番組を完食しました。
全編を通じて印象に残ったもののひとつは第1部で演奏されたピアノ協奏曲第1番で、小学生から高校生までの子ども達で構成された「東京ジュニアオーケストラソサエティ」というオーケストラが、思いがけず素晴らしい演奏をしたのは驚きでした。
中途半端なプロのオーケストラよりよほど音楽性もあり、繊細で瑞々しい魅力があったのは大したものです。
中には本当にまだ子供なのに利口な眼差しでちゃんとヴァイオリンを弾いていたり、子供用の小さなチェロで演奏していたりしますが、聞こえてくる演奏は本当に立派なもので、あっぱれでした。
この3部に至って中村紘子女史のご登場でしたが、例のごとくの演奏で見る者をいろんな意味で楽しませてくれたようです。彼女の演奏の時だけ画面はうっすらと淡いフィルターみたいなもののかかった映像になったのも妙でした。
他のピアニストのときはすべてハイビジョン特有の鮮明映像でしたが、よほど女史からの特別注文があったのかどうかはわかりませんが、ここだけちょっとアナログ時代の映像のようでした。
あいかわらず紘子女史だけのこだわりのようで、椅子は一般的なコンサートベンチではなく、背もたれ付きの例のお稽古風の椅子で、これを最高の位置までギンギンに上げているところも健在でした。
また番組ではまったくピアノが弾けないというお笑いタレント、チュートリアルの徳井氏が、仲道郁代さんを先生に、一ヶ月間猛特訓し、仕事の合間にも練習に練習を重ねて別れの曲(中間部は無し)を披露しましたが、楽譜は読めない、指は動かないという条件の中でなんとかこれをやり遂げたのは大したもの。まさに努力賞でした。
ブーニンやブレハッチなど、多くのピアニストによるスタジオ演奏が披露されましたが、圧倒的な存在感と芸術性を示したのはダン・タイソンでした。
傑作バルカローレとスケルツォの2番を弾きましたが、ひとりかけ離れた格調高い演奏は、ようやくここに至って「本物」が登場したという印象。
音楽の抑揚や息づかい、落ち着き、音節の運びや対比などにも必然性があり、さすがでした。
番組で使われたピアノは大半がスタインウェイでしたが、一部にヤマハのCFXも登場。
やはり以前のヤマハとは別次元の鳴りをしていて、高度な工業製品から一流の楽器へシフトしたという印象です。
確認しただけでも3台のスタインウェイDとヤマハのCFX、さらには番組冒頭に三台のピアノで弾かれたショパンメドレーみたいなものの中には2台のスタインウェイのBに混じって、ヤマハのCF6(新しいCFシリーズの212cmのモデル)があったのは予想外で、テレビとはいえCF6を見たのは初めてです。
番組ではアンケートを受けつけており、一番好きなショパンの作品の第一位は英雄ポロネーズに決しました。
最後に横山幸雄氏がこれを演奏しましたが、これもまたハイスピード演奏で、横山氏の指が達者なのはわかっても、全体はまるで疾走する新幹線の窓から見る景色のようで、曲を味わっているヒマはありませんでした。
小刻みに頭を左右に振りながら手早く弾いていくその姿は、まるで寿司職人が俎の前で忙しく働いているようでした。
決して内容の濃いものではありませんでしたけれども、それでもじゅうぶんに楽しめた4時間半でした。