征爾とユンディ

衛星ハイビジョン放送では過去の優れたドキュメント番組の再放送をしきりにやっていますが、『征爾とユンディ』というのは、以前見ていましたがもう一度見てみました。

テレビ番組といえども、読書と同じで、2度目には初回とはいくぶん違った印象を持つものです。
以前は見落としていたことや、制作者の意図がようやく理解できたりと、2度目は見る側にも余裕があるのでより細かい点まで目が行き届くようです。

この番組は、ユンディ・リがショパンコンクールに優勝して数年後、世界的な演奏活動も軌道に乗ってきたころ、小沢征爾の指揮するベルリンフィルと初共演をする数日間をドキュメントとして追ったもので、曲も難曲中の難曲として知られるプロコフィエフのピアノ協奏曲第2番に挑みます。

しかし、番組構成の主軸はユンディのほうにあり、ベルリンフィルとのリハーサルの様子などを随所に織り込みながら、もっぱら彼の生い立ちなどが多く語られました。小さな頃はアコーディオンを習っていたのをピアノに転向し、しだいに才能を顕し、中国で一番という但昭義先生の指導を仰ぐようになってさらに才能を開かせたユンディは、ついに世界の大舞台ショパンコンクールの覇者にまで上り詰めます。

子供のころからの写真がたくさん出てきましたが、どれもなかなか可愛らしく、彼はピアノの才能もさることながら、小さい頃から中国人としてはかなりの器量良しであったようです。しかもランランのような、いかにもベタな中国人というよりは、どこか西欧的な繊細な雰囲気も漂わせたルックスである点も、国際的なステージ人としては強い武器になっていることでしょう。

ユンディの「出世」によって家族の生活は一変し、もともと化粧をしない中国人女性(最近は少しは変わってきているようですが)の中にあって、お母さんはえらく強めのメイク(まだ馴れていない様子)などをして服装もあれこれと今風にオシャレをしています。
祖父母のほうは見るからに中国の一般的な年輩者という感じでしたが、昔と違ってほとんど孫に会えなくなったと、海外を拠点に演奏旅行に明け暮れる遠い存在となったユンディのことを半ば戸惑いながら話しているのが印象的でした。

ベンツの最新のSクラスをユンディ自ら運転して、高級料理店に一家で赴き、きらめくような個室の席で一羽丸ごとの北京ダックを数人の給仕人のサービスによって切り分けられて、それを忙しくしゃべりながらむしゃむしゃ食べるシーンなどは、見るからに中国の富裕層のそれで、彼がいかにピアノという手段でそれを獲得し、家族までもその恩恵に与らせているかをまざまざと見るようでした。

ユンディがピアノのこけら落としをした北京の中国国家大劇院は途方もない建物で、こういう贅を尽くしたホールなども恐らくあちこちにできているいるのでしょう。なにしろ現在中国でピアノの練習に励む子供の数は、実に3000万人!!というのですから、いやはや恐るべき規模であることは間違いありません。
そりゃあ、ヤマハもカワイもスタインウェイも、多少のことは目をつむってでも中国へビジネスチャンスを求めるのは無理もないでしょうね。
そしてこういう希有な市場規模をもっているからこそ、経済至上主義の現在にあって、世界各国は中国に対して断固たる態度が取れないという困った問題を抱えているのだと思います。

いっぽう、ベルリンフィルハーモニー(ホール)で驚いたのは、スタインウェイのD(コンサートグランド)がウソみたいにごろごろあることでした。ピアノ選びということもあってかステージ上には4台、通路のようなところやちょっとした控え室みたいなところにもあちこちポンポン置いてあって、演奏者の個室にはB型ぐらいのがありました。

残念だったのはせっかくのベルリンフィルとの共演の場面が少しもまとまって見ることができなかった点で、いかにドキュメントとはいえ、やはり二人は音楽家なのですから、その本業の場面をちょっとぐらい(2〜3分でもいいので)落ち着いて見せて欲しいものです。

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